この記事の要点(30秒でわかる)
- 下水が雨をさばききれずに起きる浸水を内水氾濫と呼びます。
- 千葉の豪雨では、浸水報告の55.7%が想定区域の外からでした。
- 足立区には洪水とは別に、内水の浸水想定を示した地図があります。
- 在宅では、機器と薬を「床から離す」ことが最初の一手になります。
2026年8月13日から14日にかけて、千葉県を中心に記録的な大雨が降りました。気象庁はこの大雨を「令和8年8月千葉豪雨」と命名しています。被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
この豪雨で特徴的だったのは、大きな川があふれたわけではなかったことです。それでも、駅前や道路が水につかりました。下水道が雨を流しきれずに、水があふれる場所からあふれたのです。これを内水氾濫(ないすいはんらん)といいます。
「うちは荒川から遠いので大丈夫だろう」と感じておられる方もいらっしゃるかもしれません。けれども川からの距離は、内水氾濫の安全を保証してくれません。むしろ、周りより少しくぼんだ場所のほうが水はたまります。
すえひろ訪問看護ステーションでは、災害の備えもケアの一部だと考えています。何をどこまでやればよいか分からない段階でのご相談も歓迎しています。一緒に考えさせてください。
この記事では、内水氾濫と川の氾濫の違い、千葉で何が起きたか、足立区で確認しておきたい地図、そして雨の前と最中にできることを順にご説明します。
当コラムは、訪問看護に関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別の症状・保険適用・制度のご判断についてお答えするものではありません。制度の運用は地域・保険者・個別のご状況により異なりますので、あらかじめご了承ください。
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内水氾濫とは何ですか
内水氾濫とは、降った雨の量が下水道の排水能力を超えて、行き場をなくした水が道路や敷地にあふれる現象です。川の水が堤防を越えてくる外水氾濫(がいすいはんらん)とは、水の出どころがまったく違います。
外水氾濫は、川から水が「来る」現象です。川に近いほど危なく、水位の情報を見ていれば予測もつきます。一方の内水氾濫は、自分の足元から水が「わいてくる」ように見えます。排水溝やマンホールから水が逆流し、周囲より低い場所にたまっていきます。
だから、川から離れていても起こります。むしろ都市部では、こちらのほうが身近です。国土交通省も、都市化が進んだ地域では内水による浸水被害の比重が大きいことを指摘しています(出典:国土交通省 水害対策を考える「都市部で顕在化する内水氾濫」)。
どれくらいの雨で起きるのかというと、目安は1時間あたりの雨量です。東京都下水道局は、区部の下水道について1時間50mmの降雨への対応を基本に整備を進めてきたと説明しています(出典:東京都下水道局 豪雨対策下水道緊急プラン)。裏を返せば、1時間に50mmを大きく超える雨が降ると、下水道は追いつかなくなる可能性があるということです。
なお、荒川そのものが氾濫した場合の話は性質がまったく異なります。そちらについては荒川が氾濫したときに訪問看護がどう動くかをまとめた記事で詳しくご説明しています。
外水氾濫と内水氾濫は、別のものです
| 外水氾濫(川があふれる) | 内水氾濫(下水が追いつかない) | |
|---|---|---|
| 水の出どころ | 川の水が堤防を越える・堤防が壊れる | 排水溝やマンホールから水が逆流する |
| 起きやすい場所 | 川に近い低い土地 | 川から離れていても、周りより低い場所 |
| 前ぶれ | 河川の水位情報で見通しが立つ | 短時間の強い雨で急に始まる |
| 水が引くまで | 長引くことがある | 雨がやめば比較的早く引くことが多い |
| 在宅で効く備え | 早めの広域避難・電源と薬の確保 | 床置きの荷物を高い場所へ・上の階へ移る |
ここが大事
内水氾濫は、川からの距離では避けられません。足元の高さで決まります。
出典:国土交通省「水害対策を考える 都市部で顕在化する内水氾濫」/東京都下水道局
千葉の豪雨では何が起きていたのですか
令和8年8月千葉豪雨では、国が管理する河川の氾濫による被害情報がないまま、市街地が広く浸水しました。被害の中心は内水氾濫だったとみられています(出典:国土交通省資料をもとにしたウェザーニューズの分析)。
雨の量が桁違いでした。千葉市中央区のアメダスでは、8月14日0時までの12時間で341.5mmの雨が積算されています。佐倉市で227.0mm、茂原市で226.5mm。線状降水帯が繰り返し発生したことが原因とされています(出典:ウェザーニュース 2026年8月14日)。
注目したいのは、1時間あたりの強さです。ウェザーニューズは、一般的な下水道が処理できる雨量が1時間50mm程度であるのに対し、今回は1時間100mmを超える、処理能力の約2倍にあたる雨が降ったと解説しています。
そして、この記事でいちばんお伝えしたい数字があります。ウェザーニューズが浸水被害の報告約2万件(緊急アンケート10,009件とウェザーリポート9,938件)を分析したところ、55.7%が低位地帯または浸水想定区域「外」からの報告でした(出典:ウェザーニュース 2026年8月14日)。
つまり、ハザードマップで色がついていなかった場所からの報告が半分以上を占めていました。アンケートに基づく数値なので厳密な発生率ではありませんが、「色がついていないから安全」とは言えないことを示す材料になります。
実際の被害は、道路やアンダーパス(線路などの下をくぐる掘り下げ道路)の冠水が中心でした。JR常磐線のアンダーパスが冠水して通行止めになった例も報告されています。低い場所には、周りから水が集まるのです。
下水道がさばける雨と、実際に降った雨
浸水被害の報告 約2万件は、どこから届いたか
ハザードマップで色がついていない場所からの報告が、半分以上を占めました。アンケートに基づく数値のため厳密な発生率ではありませんが、色の有無だけで判断できないことを示しています。
出典:ウェザーニュース(2026年8月14日)/東京都下水道局 豪雨対策下水道緊急プラン
足立区は、内水氾濫にどれくらい弱いのですか
足立区は、内水氾濫が起きやすい地形の条件をひととおり備えています。荒川・中川・綾瀬川・芝川・毛長川に囲まれた沖積低地にあり、区の約7割が海抜ゼロメートル地帯です(出典:足立区 区の地勢・面積)。水は低いほうへ流れますが、その低いほうがまさに区内なのです。
ここで大切なのは、足立区のハザードマップが「洪水」だけの地図ではないという点です。区が公開しているのは「洪水・内水・高潮ハザードマップ」で、川の氾濫とは別に、内水による浸水想定が掲載されています(出典:足立区 洪水・内水・高潮ハザードマップ 令和4年4月改訂)。
洪水のページだけを見て安心してしまうと、内水のリスクを見落とします。ご自宅の場所を、内水のページでもう一度探してみてください。荒川からの距離とは違う模様が見えるはずです。
さらに新しい情報があります。東京都下水道局は令和8年3月25日に「中川・綾瀬川圏域 雨水出水浸水想定区域図」を公表しました。足立区・葛飾区・江戸川区が対象で、時間最大雨量153mm・24時間総雨量690mmという想定最大規模の降雨を前提としています(出典:東京都下水道局)。
住所から調べたい場合は、東京都建設局の「浸水リスク検索サービス」が便利です。地図や住所から、想定される浸水の深さや範囲を確認できます。離れて暮らすご家族でも、実家の住所を入れて確認できます。
なお、足立区のハザードマップは令和7年4月に、毛長川・伝右川・垳川など中小河川の洪水浸水想定区域図の公表に伴って更新されています。数年前に印刷したものをお持ちの方は、最新版に差し替えておいてください。梅雨や台風の前に見直しておきたい点は梅雨入り前の浸水リスクと訪問看護の対応をまとめた記事にもまとめています。
区が公開しているのは「洪水・内水・高潮ハザードマップ」です。3つがひとつになっていることを、まず確認します。
洪水のページだけで終わらせないことが肝心です。荒川からの距離とは違う模様が見えることがあります。
東京都建設局の「浸水リスク検索サービス」なら、地図や住所から想定される浸水の深さと範囲を調べられます。
合わせて10分ほどでできます。
出典:足立区 洪水・内水・高潮ハザードマップ(令和4年4月改訂)/東京都建設局 浸水リスク検索サービス
在宅療養のご家庭が、雨が降る前にできること
内水氾濫への備えで最初にすべきことは、床から30cm上げることです。内水氾濫は水位が急に上がりますが、深さは川の氾濫ほどにならないことも多く、少し高い場所に移すだけで守れるものがたくさんあります。
床に直置きしているものを見回してみてください。吸引器、酸素濃縮器の予備、経管栄養のボトル、おむつのストック、お薬の箱。これらが濡れると、水が引いたあとの生活が一気に苦しくなります。台やカラーボックスの上段に移すだけで違います。
次に、電気の備えです。内水氾濫でも、変圧器の浸水や安全のための送電停止で停電は起こります。医療機器をお使いのご家庭では、内蔵バッテリーの駆動時間を把握しておくことが出発点になります。詳しくは停電が3日続いたときの電源の備えをまとめた記事をご覧ください。人工呼吸器や吸引器をお使いのお子さんについては医療的ケア児の在宅防災と電源確保の記事にまとめています。
そして、避難の相談を早めに始めておくことです。足立区には避難行動要支援者名簿があり、要介護度や障害者手帳の等級などで対象が定められています。登録しておくと安否確認の手がかりになります。制度の中身は足立区の避難行動要支援者名簿を解説した記事でご確認ください。
雨の予報が出た日にできることもあります。携帯電話とモバイルバッテリーを満充電にする、浴槽に水をためておく、お薬の残り日数を数える。この3つは10分あればできます。
どこまで備えればよいか、迷われる場面もあると思います。ご自宅の間取りや機器の構成によって答えは変わりますので、まずはご相談ください。
大雨の予報が出たら、今日やること
水があふれ始めたら、どう動きますか
大雨のさなかに移動することは、それ自体が危険を伴います。水がすでに道路に出ている状況では、無理に外へ出るより自宅の高い階にとどまるほうが安全な場合があります。
歩ける深さの目安は、おおむね膝下までとされています。それ以上になると、大人でも流されます。水面の下は見えません。側溝のふたが外れていたり、マンホールが開いていたりすることがあります。車いすや歩行器での移動は、さらに難しくなります。
車での移動も慎重に考えてください。アンダーパスは、周囲が乾いていても水がたまる場所です。千葉の豪雨でも、アンダーパスの冠水による通行止めや車の水没が報告されました。少しでも水が見えたら引き返してください。
在宅療養中の方の場合、移動そのものが体に負担になります。人工呼吸器や在宅酸素をお使いの方は、避難先で電源が確保できるかどうかも判断材料になります。どういう状態になったらどう動くのか、平時のうちに主治医と決めておいてください。
停電や断水が重なったときの動き方は、地震の場合と共通する部分が多くあります。地震が起きたときにまず確認することをまとめた記事もあわせてご覧ください。
判断に迷う状況になったら、ご連絡ください。制度上むずかしいと思われることでも、まずはご相談ください。
外の水はどれくらいの深さですか
程度
まで
上
車で出るときの注意。アンダーパスは周囲が乾いていても水がたまる場所です。少しでも水が見えたら引き返してください。令和8年8月千葉豪雨でも、アンダーパスの冠水による通行止めと車の水没が報告されています。
上の階へ移るのが難しく、避難所を考える場合もあると思います。どこへ向かうことになるのかは在宅療養のご家族がどこへ避難するのかにまとめました。
まとめ
内水氾濫は、川があふれなくても起きる浸水です。下水道が雨をさばききれず、周囲より低い場所に水がたまります。令和8年8月千葉豪雨では、下水道の処理能力の約2倍にあたる1時間100mm超の雨が降り、浸水報告の55.7%が想定区域の外からでした。
足立区は区の約7割が海抜ゼロメートル地帯で、内水氾濫が起きやすい条件がそろっています。区が公開しているのは「洪水・内水・高潮ハザードマップ」ですので、洪水のページだけでなく内水のページでもご自宅を探してみてください。
在宅でできることは、床に置いているものを30cm上げる、電源の備えを確認する、避難の相談を早めに始める。この3つが軸になります。
すえひろ訪問看護ステーションは、災害の備えもケアの一部だと考えています。何から手をつけるかの整理からご相談ください。備えは一度に全部そろえなくて構いません。今日は地図を開く、来週は床置きの荷物を動かす。そのくらいの歩幅で十分です。
水が引いたあとにも、家の中で確かめておきたいことがあります。濡れた機器やお薬の扱いは水が引いた後、家に戻る前に確認することでご説明しています。
よくある質問
ハザードマップで色がついていなければ、浸水しませんか
そうとは限りません。令和8年8月千葉豪雨では、浸水報告の55.7%が低位地帯または浸水想定区域の外からでした。ハザードマップは想定した条件での計算結果ですので、想定を超える雨が降れば色のない場所でも水は出ます。ご自宅の周りで「少しくぼんでいる」と感じる場所も判断材料にしてください。
荒川の氾濫と内水氾濫では、備え方が違いますか
重なる部分と違う部分があります。共通するのは、電源の備え、お薬の確保、連絡手段の複線化です。違うのは避難の考え方で、荒川の氾濫では区外への広域避難が想定される一方、内水氾濫では自宅の上の階にとどまる判断が有効な場面が多くなります。深さと継続時間の想定が異なるためです。
マンションの上の階に住んでいれば安心ですか
居室そのものは水につかりにくくなりますが、別の困りごとが出ます。エレベーターが止まると、外出も物資の受け取りも難しくなります。停電すれば給水ポンプが止まり、断水と同じ状態になることもあります。上の階だからこそ、水と食料、お薬の備えを厚めにしておくことをおすすめします。
大雨の日、訪問には来てもらえますか
スタッフの安全が確保できる限り、いつもどおりうかがいます。これは台風や雪のときも同じ考え方です。道路の冠水などで安全が保てないと判断した場合は、訪問を取りやめるのではなく、まず時間や日にちの変更をご相談させていただきます。訪問を見送るのは最終手段と考えています。心配なときは早めにご連絡ください。あわせて、電話がつながりにくいときのために連絡手段を複数用意しておいていただけると助かります。
内水氾濫でも避難情報は出ますか
区市町村から避難情報が出ることがありますが、内水氾濫は雨が強まってから浸水までの時間が短く、情報が届く前に水が出ることもあります。雨雲の動きを見て、強い雨が続きそうだと感じた時点で早めに動いてください。東京アメッシュなど、リアルタイムで雨量を見られる仕組みを普段から開けるようにしておくと安心です。
