この記事の要点(30秒でわかる)
- 停電の復旧は数日から数週間。道路の状況で大きく変わります。
- まず、お使いの機器が何時間動くのかを数字で把握します。
- つなぐ順番は内蔵バッテリー、外部バッテリー、自動車の順です。
- 長引くときは自宅にこだわらず、電源のある場所へ移る判断もあります。
前回の記事では、地震が起きた直後に確認する順番をご説明しました。今回は、そのなかでもご家族の不安がいちばん大きい停電について、もう少し踏み込んでお伝えします。
人工呼吸器や吸引器を使っている方にとって、電気は命綱です。「バッテリーは何時間持つのだろう」「切れる前に電気は戻るのだろうか」。訪問先でよく伺うご心配です。
結論からお伝えすると、復旧までの時間は読めません。読めないからこそ、何時間持つかを知り、つなぐ順番を決めておくことが備えになります。
すえひろ訪問看護ステーションでは、災害の備えもケアの一部だと考えています。何をどれだけ用意すればよいか分からない段階でのご相談も歓迎しています。
この記事では、停電が実際どれくらい続いたのか、機器が何時間動くのか、電源をつなぐ順番、機器ごとの備え、そして長引いたときの判断を順にご説明します。
当コラムは、訪問看護に関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別の症状・保険適用・制度のご判断についてお答えするものではありません。制度の運用は地域・保険者・個別のご状況により異なりますので、あらかじめご了承ください。
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停電はどれくらい続くのですか
過去の地震では、数日で戻った地域もあれば、1か月近くかかった地域もあります。差を生んだのは地震の大きさよりも、道路が通れたかどうかでした。
平成28年の熊本地震では、本震で最大およそ47万7千戸が停電しました。がけ崩れや道路の破損で復旧が難しい場所を除き、高圧配電線への送電が完了したのは本震から4日後です(出典:経済産業省 産業構造審議会 保安分科会 電力安全課資料)。
一方、令和6年の能登半島地震では、最大停電はおよそ4万戸と規模は小さいものでした。それでも土砂災害やがれきで作業車が入れず、概ね復旧したのは1月末です(出典:経済産業省 令和6年能登半島地震の対応について)。発災は元日でしたので、ひと月近くかかったことになります。
つまり、停電の長さは戸数では決まりません。電線が直せる場所にあるかどうかで決まります。足立区は平地で道路も整っていますので、山間部より条件は良いといえます。ただし橋が使えなくなる可能性は残ります。
備えの目安としては、まず3日間を自力で乗り切れる状態を目指してください。そのうえで、余裕があれば1週間を視野に入れます。3日という数字は、外からの支援が届き始めるまでの目安として広く使われています。
停電の復旧までにかかった日数
停電の長さは戸数では決まりません。能登は停電の規模が小さかったにもかかわらず、土砂災害やがれきで作業車が入れず復旧に時間がかかりました。電線を直せる場所にあるかどうかが分かれ目です。
出典:経済産業省 産業構造審議会 保安分科会 電力安全課資料
お使いの機器は、何時間動きますか
備えの出発点は、数字を知ることです。人工呼吸器の内蔵バッテリーは、機種によって2時間程度のものから8時間を超えるものまであります。この差は大きく、一律の目安では判断できません。
まず取扱説明書を開くか、機器を納入している業者に電話して、内蔵バッテリーの駆動時間を確認してください。そのうえで、その数字を紙に書いて機器の近くに貼っておくことをおすすめします。停電の最中に説明書を探すのは現実的ではありません。
注意したいのは、バッテリーは年数とともに弱ることです。購入時に8時間持ったものが、数年後には半分になっていることもあります。定期点検のときに、バッテリーの状態も見てもらうよう業者に伝えておいてください。
加温加湿器を併用している場合、消費電力が大きく増えます。停電時は加湿を止めて人工鼻に切り替える運用をとることがあります。これは機器と病状によって判断が分かれますので、事前に主治医と決めておいてください。
「業者に何を聞けばよいか分からない」という段階でも構いません。聞くことの整理からお手伝いできますので、訪問のときにお声かけください。
停電に備えて、今日確認すること
電源をつなぐ順番を決めておきます
停電したときにどこから電気を取るか、順番を決めておくと迷いません。基本は、内蔵バッテリー、専用の外部バッテリー、自動車からの給電、発電機の順です。
厚生労働省の資料でも、備えとして外部バッテリー、自動車からの電源確保、蓄電池、自家発電機、太陽光発電が挙げられています(出典:厚生労働省 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ資料)。ご家庭の事情に合うものを、複数持っておく考え方です。
専用の外部バッテリーは、機器メーカーが用意している場合があります。まずはこれを確認してください。純正品であれば適合の心配がありません。
汎用のポータブル電源を使う場合は、必ず業者に適合を確認してください。出力の波形が合わないと、機器がエラーを起こしたり故障したりすることがあります。「容量が大きいから大丈夫」とはなりません。
自動車は、燃料がある限り使える点が強みです。シガーソケットからの給電や、車種によっては家電が使える給電機能があります。
ただし、シガーソケットにそのまま医療機器をつなげるとは限りません。多くの場合、直流を交流に変える装置(インバーター)が必要になります。出力の波形が合うかどうかも、ポータブル電源と同じく問題になります。車を備えとして数えるのであれば、何が必要かを事前に業者へご確認ください。
車内で長時間過ごすことになる場合は、換気と熱中症にも注意してください。夏場は特に危険です。
発電機は最後の手段です。屋内では絶対に使わないでください。一酸化炭素中毒の危険があります。使う場合は屋外に置き、あらかじめ動かす練習をしておきます。
なお東京都には、在宅で人工呼吸器を使う難病の方を対象に、自家発電装置や蓄電池などの予備電源を無償で貸与する事業があります(出典:東京都 在宅人工呼吸器使用難病患者非常用電源設備整備事業)。足立区にお住まいの方も対象になります。
ただし条件があります。難病医療費等助成の対象疾病であること、在宅で24時間人工呼吸器を使用していること、原則としてその年度に新規で在宅療養を開始した方であることです。当てはまらない場合もありますので、まずは確認から始めてください。
そして大事な点として、この申請は医療機関が行います。ご家族が区役所や都に申し込む仕組みではありません。「該当しそうだ」と思われたら、主治医にご相談ください。制度の詳しい要件は、東京都や足立区の窓口でご確認いただけます。
停電すると自動で切り替わります。まず残り時間を確認してください。
メーカー純正品なら適合の心配がありません。汎用のポータブル電源は必ず業者に適合を確認してください。
燃料がある限り使えます。ただしインバーターが必要な場合があり、波形の適合も要確認です。車内で過ごす場合は換気と熱中症にも注意してください。
屋内では絶対に使わないでください。一酸化炭素中毒の危険があります。屋外に置き、事前に動かす練習をしておきます。
機器ごとの備え方
機器によって、停電したときの対応が変わります。それぞれの代替手段を知っておくと、慌てずに済みます。
人工呼吸器は、内蔵バッテリーから外部電源へ切り替えます。あわせて、電気を使わない手動の蘇生バッグを必ず手の届く場所に置いてください。使ったことがあるかどうかで、いざというときの動きが大きく変わります。使い方に不安があれば、訪問のときにお声かけください。
吸引器は、手動式や足踏み式のものを1台備えておくと安心です。電気がなくても使えますので、停電が長引く場面で力を発揮します。充電式の吸引器をお使いの方も、予備として持っておく価値があります。
在宅酸素療法(HOT)では、停電時に酸素濃縮器が止まります。携帯用の酸素ボンベに切り替えてください。ボンベの残量と本数は、月に一度は確認しておきたいところです。停電が長引くときは、業者に連絡してボンベの追加を依頼します。
経管栄養のポンプが止まった場合は、注入器を使った手動での注入に切り替えられることがあります。速度の管理が難しくなりますので、可能かどうかと手順を、事前に確認しておいてください。
いずれの機器も、業者の連絡先を紙に書いて貼っておくことが基本です。停電時はスマートフォンの電池も貴重になります。
| 機器 | 停電するとどうなるか | 代替手段 | 備えておくもの |
|---|---|---|---|
| 人工呼吸器 | 内蔵バッテリーに自動で切替 | 外部電源へ切替/手動の蘇生バッグ | 蘇生バッグを手の届く場所に。使い方を家族が知っておく |
| 吸引器 | 電動式は使えなくなる | 手動式・足踏み式に切替 | 手動式の吸引器を1台 |
| 在宅酸素(HOT) | 酸素濃縮器が停止する | 携帯用の酸素ボンベに切替 | ボンベの残量と本数を月1回確認 |
| 経管栄養ポンプ | 注入が止まる | 注入器での手動注入(可否は要確認) | 手順を事前に主治医・看護師と確認 |
いずれの機器も、業者と主治医の連絡先を紙に書いて貼っておくことが基本です。停電時はスマートフォンの電池も貴重になります。
停電が長引くとき、自宅にとどまるべきですか
自宅にこだわらない判断も、選択肢として持っておいてください。電源が尽きる見通しが立った時点で、電気のある場所へ移ることを考えます。
移る先には、避難所のほか、かかりつけの医療機関への入院、電源が確保できる親族宅などがあります。避難入院という仕組みが用意されている地域もあります(出典:厚生労働省 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ資料)。
判断の分かれ目になるのは、移動そのものの負担です。人工呼吸器を使っている方の移動は簡単ではありません。移動中に電源が切れないか、車内で体位を保てるか、といった点を含めて考える必要があります。
そのため、平時のうちに主治医と「どういう状態になったらどう動くか」を決めておくことをおすすめします。停電から何時間経ったら連絡するのか、どこへ向かうのか。この2つが決まっているだけで、判断が早くなります。
判断に迷う場面では、遠慮なくご相談ください。制度上難しいと思われることでも、まずはご相談ください。一緒に考えさせてください。
この時点で動き始めます。尽きてからでは間に合いません。
あわせて訪問看護ステーションにもお知らせください。
移動そのものが負担になる場合もあります。平時のうちに「停電から何時間で連絡するか」「どこへ向かうか」の2つを主治医と決めておくと、判断が早くなります。
まとめ
停電の長さは戸数ではなく道路の事情で決まります。過去には4日で戻った地域も、1か月近くかかった地域もありました。まずは3日間を自力で乗り切れる状態を目指してください。
備えの出発点は、お使いの機器が何時間動くかを知ることです。その数字を紙に書いて機器の近くに貼り、内蔵バッテリー、外部バッテリー、自動車という順番を決めておきます。吸引器の手動式、蘇生バッグ、酸素ボンベといった電気を使わない手段も、あわせて用意しておきたいところです。
すえひろ訪問看護ステーションは、災害の備えもケアの一部だと考えています。業者に何を聞けばよいか、どこまで買えばよいか、そうした整理のご相談も承っています。備えは一度に全部そろえなくて構いません。まずはご相談ください。
よくある質問
ポータブル電源を買えば安心ですか
機器に対応しているかを、必ず業者に確認してください。容量が大きくても、出力の波形が合わないと機器がエラーを起こしたり故障したりすることがあります。購入前に型番を伝えて相談するのが確実です。
内蔵バッテリーは何時間くらい持ちますか
機種によって2時間程度から8時間を超えるものまで幅があります。一律の目安はありませんので、取扱説明書か業者にご確認ください。バッテリーは年数とともに弱りますので、定期点検のときに状態も見てもらってください。
停電したら、すぐ避難したほうがよいですか
一律には決められません。移動そのものが体に負担になる場合もありますので、電源の残り時間と復旧の見通しを見てから判断します。平時のうちに、どういう状態になったらどう動くかを主治医と決めておくことをおすすめします。
発電機は用意しておくべきでしょうか
屋外で使えて、動かす練習ができるのであれば有力な備えになります。ただし屋内では絶対に使わないでください。一酸化炭素中毒の危険があります。集合住宅で置き場所がない場合は、外部バッテリーと自動車からの給電を優先して考えます。
予備電源を用意する費用の助成はありますか
東京都に、在宅で人工呼吸器を使う難病の方へ予備電源を無償で貸与する事業があります。ただし24時間の使用、難病医療費等助成の対象疾病、原則としてその年度に新規で在宅療養を開始した方、といった条件があります。申請は医療機関が行いますので、まずは主治医にご相談ください。
電気が止まったことを、誰に連絡すればよいですか
医療機器の業者と主治医が基本です。あわせて訪問看護ステーションにもお知らせください。連絡先を紙に書いて機器の近くに貼っておくと、スマートフォンが使えない状況でも対応できます。
