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「血液透析の辛さを10とすると、今は1か2です」——腹膜透析で取り戻した、自分らしい毎日

「血液透析が10だとしたら、今の辛さは1か2ですね。辛さは全く辛くないんですよ」——穏やかな口調で、しかし確かな力強さをもってそう語ってくれたのは、現在腹膜透析を自宅で実践している勝又さんです。血液透析から腹膜透析へ。その選択は、周囲の誤解や不安のなかで、正しい情報を自ら求め続けた末にたどり着いたものでした。腹膜透析に対して「自由がなくなる」「自分には無理」と感じている方に、ぜひ読んでいただきたいインタビューです。

最初の分かれ道——血液透析か、腹膜透析か

透析が始まったのは、去年の3月のことでした。最初に選んだのは血液透析。週3回、1回あたり4時間、病院へ通う生活が始まりました。

「もう一時頃だったんですよね、病院に着くのが。二時からの透析で、帰ってきたのがいつも六時半頃でした」

帰宅後の疲労感は相当なものでした。体が透析の疲れをそのまま引きずり、他のことをする気力が残らない。透析中は腕を少しでも動かすと警告音が鳴るため、4時間ほとんど身動きが取れません。

「動画配信も、もともと好きだったんですけれども、強制的に一日おきに四時間見なくちゃいけないっていう状態になったら、あんまり楽しくなくなっちゃったんですよ」

そう振り返る勝又さんの表情には、当時の閉塞感がにじんでいました。Audibleで本を聴いたり、スマホで動画を見たりして時間をやり過ごしていたものの、「好き」だったはずのことが義務になった時の虚しさは、じわじわと心を削っていきました。

夏頃になると、「もしできることなら腹膜透析に変えたい」という気持ちが芽生え始めます。そこで改めて慶応病院を訪れ、詳しい説明を聞くことにしました。

「日中どこにも出られない」は誤解だった

腹膜透析への印象が変わったのは、正しい仕組みを理解してからのことでした。

最初に説明を受けた時、勝又さんはこう思い込んでいたといいます。「透析液をお腹に入れて、2時間したら排出して、それを3回繰り返す——ずっと続けてやらなくちゃいけないと理解したんですよ。そうすると日中どこにも出られないじゃないかと」

しかし、慶応病院で改めて聞いた実態は全く違うものでした。朝に透析液を注入し、2時間後に排出する。それが終われば、夕方まではお腹が空っぽの状態で自由に動けるのです。

「夜はテレビを見ながらダラダラしてるもんですから、その間に透析をするのは、私の生活パターンにあんまり影響を与えないですね。それだったらこちらの方がいいかなと思って、思い切って手術をして」

現在の勝又さんの1日はこのように流れています。朝5時半に目覚まし時計を合わせ、30分かけて透析液を保温。6時に起きてすぐ注液を始め、8時半から9時の間に排液。その後は自由に外出できます。夜は帰宅後に連続して2回実施。煩わしいと思っていたチューブも、腹巻きの中に収納することで日常生活での違和感はほとんどないといいます。

「外に出てるチューブは固定してるから全然動かないし、スポーツだって大丈夫ですよ」と、表情を明るくして教えてくれました。

辛さでいえば、10だった血液透析から1〜2へ

「辛さを10として考えたら、今はどれくらいですか?」という問いに、勝又さんは間を置かずに答えました。

「もうそれこそ1とか2とかですね。辛さは全く辛くないんですよ」

血液透析では、麻酔を打っても針を刺す痛みが残ることがありました。担当する看護師さんによっては血管に針が触れてしまい、4時間ずっとじんじんと痛み続けることも。「痛い痛い痛いって騒いでいる人もいましたしね」と、当時の病院の光景を静かに振り返ります。

腹膜透析に変えてからは、痛みとは無縁の生活になりました。それだけでなく、透析中に体を動かせるという大きな変化があります。排液の時間は11分。その間、勝又さんはストレッチを続け、さらにスクワットを30回こなします。

「排液も注液の時も、ストレッチを結構やりますよ。一日三回やってるから、合計六十分はストレッチしてる計算になりますね」

腰椎すべり症と脊柱管狭窄症の手術歴があり、腰の痛みと長年付き合ってきた勝又さんにとって、透析中のストレッチは一石二鳥でもありました。

もちろん、アップダウンがなかったわけではありません。腹膜透析を始めて2〜3ヶ月の間は、リンやBNPの値が上昇し、薬や塩分制限で対処する必要がありました。足がひどくむくんで正座もできないほどパンパンになった時期もあり、毎晩足がつって夜中に何度も目が覚めていた時期も。「いろんなアップダウンはありますけども、今のところは血液透析よりはずっと体も楽でいい状態。でも何しろ血液透析に戻りたくないから」——その一言に、腹膜透析への確かな手応えが込められていました。

自己管理が鍵——スケジュールと食事制限のリアル

腹膜透析の生活で最も大変なことを聞くと、勝又さんは少し考えてから答えました。「食事ですね。やっぱり一番大変なのは多分食事だと思いますよ」

腎臓病患者の塩分制限は1日6グラム。最初の1ヶ月は小さなスプーンで塩分を測り、徹底的に管理しました。厳格に続けると数値がかなり下がったのですが、少し気を許して測るのをやめたら、また上がってしまった。

「やっぱりこれは永遠に続けなくちゃいけないなと思って。今でも頭の中で、これは減塩醤油だからスプーン一杯でいくらとか、そういうことは一応考えながらやってます」

今は1グラム単位で測れる小さじスプーンを活用し、ChatGPTで食材の塩分量を確認するなど、独自の工夫を積み重ねています。外食はほとんどやめました。旅行中だけは「何も気にしないで食べる」解放日と決め、メリハリをつけることで無理なく続けられています。

「もともとスケジュール通りに動くのが好きなんですよ。一回決めてしまうと、そのパターン通りに結構動けるんです。苦痛じゃなくてね」

体重測定・血圧測定・1日3回の排液量の記録——毎日欠かさず行う管理作業も、勝又さんにとっては「頭を使い続けることで認知症予防にもなっているかも」と前向きに捉えています。毎日のルーティンを楽しんでいるような、どこかゆったりとした表情が印象的でした。

旅行にも行けた——腹膜透析と「自由」の両立

「腹膜透析を始めてから初めて、四月の半ばに一週間旅行に行ったんですよ」

その言葉を聞いた時、インタビュアーが思わず「一週間!」と声を上げました。透析をしながら一週間の旅行——多くの方が「無理だろう」と思うかもしれません。

しかし勝又さんは、担当医と相談しながら独自のプランを組み立てました。出発日の前に3回透析を行い、旅行先では1回だけ血液透析を受け、帰宅当日にまた3回実施する。「ヒヤヒヤしてたんですけど、今回の検査で全体的に数値が下がってたっていうから、あ、よかったんだなと思って」と、ほっとした表情で振り返りました。

その後も、栃木県の足利フラワーパークへのいとことの日帰り外出を実現しています。外出日は透析を1回にとどめ、前日と翌日にそれぞれ4回実施するという工夫で乗り切りました。

月1回のウォーキングの会への参加、週1回の体操教室——日常的な社会活動もしっかり続けています。透析中にS字フックに機器を吊るしてストレッチを行い、シャワーはフィルムなしで問題なく浴びられる。「普通にね、生活できますからね」という言葉が、全てを表していました。

正しい情報に出会えるかどうかが、人生を変える

「腹膜透析はダメ」——そう言われた経験があります。ご主人の知人が通う病院の血液透析センターの看護師さんに腹膜透析の話をしたところ、「あれはダメ」と全否定されたというのです。「水道水をものすごく使うから水道代がかかる」という理由まで挙げられましたが、腹膜透析では水道水は使いません。

「ちゃんとした知識を持たないまま否定してしまう傾向がある」と、勝又さんは静かに、しかしはっきりとした口調で言いました。

YouTubeやインターネットにも誤った情報が溢れています。ある動画では「透析液を朝入れたら夕方までそのままにしておいてよい」と説明していましたが、慶応病院で確認すると「それはダメです」と明確に否定されました。せっかく体内に入れた透析液は、2時間を超えると逆に廃液が腹膜から染み出してしまうのだそうです。

「症例の多い、やっぱり総合病院みたいなところに行くのが一番いいのかな」というのが、勝又さんが行き着いた結論です。

アメリカでは透析患者の20〜30%が腹膜透析を選んでいるといいます。日本での普及率はまだ低く、正しい情報を持つ医療者に出会えるかどうかが、患者の人生を大きく左右してしまう現実があります。

腹膜透析を選ぼうとしている方へ——勝又さんからのメッセージ

「私の話が役に立つんだったらいいなと思って」

インタビューを引き受けた理由を尋ねると、勝又さんはそう答えてくれました。その言葉の裏には、自分が経験した試行錯誤を、これから選択を迫られる誰かの助けにしてほしいという、静かで温かい思いがありました。

腹膜透析を続けるうえで大切なことは何かと聞くと、二つのことを挙げてくれました。

「まず第一のポイントとしては、自己管理できるかどうかじゃないですか。それから、規則正しいことをするのが好きかどうか」

一日のルーティンをしっかり決めて、そのパターン通りに動ける人。家事も食事管理も自分でできる人。そういう方には、腹膜透析は血液透析より格段に楽な選択肢になり得ると、勝又さんは力強く語ります。

「全面的に血液透析に戻るんだったら、もうやめてもいいかなとか思ってるんですよ。それほど血液透析には戻りたくない」

この言葉が、すべてを語っています。腹膜透析は、ただ体が楽になるだけの話ではありませんでした。自分の生活リズムで、自分のペースで、自分の体を自分でコントロールしながら生きていく——その主体性と自由を、取り戻すための選択だったのです。

すえひろ訪問看護ステーションより

勝又さんとすえひろ訪問看護ステーションスタッフ。手前にBaxter製ホームPDシステム「つなぐ」

実は、勝又さんはすえひろ訪問看護ステーションにも一度ご相談くださいました。しかし当時の私たちには腹膜透析の対応実績がなく、他の訪問看護ステーションをご紹介するほかありませんでした。

その経験が、私たちに大きな課題を突きつけました。「腹膜透析を選びたい方を、知識がないという理由で断ってしまっていいのか」——勝又さんの言葉と選択が、すえひろを動かすきっかけになりました。

2026年5月18日、日暮里・長谷川病院腎臓内科の都築先生をお招きし、スタッフを対象とした腹膜透析の勉強会を開催しました。腹膜透析を必要とする方を、訪問看護として責任を持って支えられるように。勝又さんのような選択をしたいと思っている方が、すえひろのドアを叩いてくださった時に「お受けできません」と言わなくて済むように。

さらに2026年9月29日には、腹膜透析の分野で広く知られる丹野先生をお招きし、実践的な勉強会を開催予定です。

私たちはまだ道の途中です。でも、確実に動き始めています。腹膜透析に関心のある方、在宅療養についてお悩みの方は、どうぞまずはご相談ください。制度上難しいと思われることでも、専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。

インタビュー・執筆:苅野 竜一

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