「訪問リハビリをお願いしたけれど、家族として何をどこまでやればいいのか分からない」。退院後のご自宅で、そうした戸惑いの声をよくいただきます。
結論から言うと、ご家族のサポートは「代わりに動く」ことではなく、「生活の情報を担当者につなぎ、本人のできることを一緒に増やす」ことです。訪問リハビリ1回あたりの提供時間は20分・40分・60分と制度で区切られているため、残りの時間を支える役割がご家族にあります。
本記事では、訪問リハビリでご家族ができる6つの関わり方、できること・できないことの線引き、ご家族自身の負担を減らす考え方、事業所選びで確認したい3つの質問までを整理します。足立区で訪問看護・訪問リハビリを運営する立場から、現場でよくお伝えしている内容をまとめました。
訪問リハビリで「家族のサポート」が重要とされる理由
訪問リハビリは、医師の指示のもとで理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がご自宅へ伺うサービスです。要介護認定を受けた方であれば介護保険で、医療保険の対象となる方であれば医療保険で利用できます。
専門職が「いる時間」より「いない時間」のほうが圧倒的に長い。この構造を理解しておくと、ご家族の関わり方の輪郭が見えてきます。
訪問リハビリの位置づけと目的
訪問リハビリは、通院が難しい方の生活機能を自宅環境で評価し、動作練習や環境調整を行うサービスです。目標は病院のリハビリと少し異なります。病院は「できる能力」を引き上げる場、在宅は「している動作」を暮らしのなかで増やす場、と整理すると分かりやすいです。
主治医の指示書に沿って、ケアマネジャーが作成するケアプランに組み込まれる形で始まります。訪問看護ステーションから看護師とセラピストが伺うパターンと、医療機関(病院・診療所)から理学療法士等が伺うパターンの2つがあり、どちらを選ぶかは地域の体制とご本人の状態で決まります。
セラピストが「いる時間」より「いない時間」の方が長い
介護保険の訪問リハビリは、1回20分を1単位として算定します。週2回・1回40分の訪問であれば、合計80分が1週間の提供量です。日数で割れば、1日あたり約11分です。
残り時間の過ごし方で、できることが広がるかどうかが決まります。「訪問リハビリの効果はご家族次第」とまでは言いません。ただ、ご家族の関わりが日常の動作量を左右するのは確かです。
ご家族は「代わりに動く人」ではなく「生活を一緒につくる人」
ご家族の役割を「身の回りの世話を全部担う」と捉えると、介護負担が青天井になります。訪問リハビリの文脈では、ご家族は生活情報を担当者に渡す人・自主トレの見守り役・環境の工夫をする人というポジションが現実的です。
「ご本人の代わりに動く」のではなく「ご本人がやれる場面を増やす」。この視点の切り替えが、長い在宅療養を続けるうえでの要になります。
との時間
ご家族ができる6つのサポート|訪問リハビリ当日と日常編
ご家族のサポートは、訪問日の立ち会いだけでは終わりません。日常のなかで無理なく続けられる関わり方を、現場でお伝えしている内容から6つに整理しました。全部やろうとしないことが継続の前提です。
①訪問前の環境整備(スペースの確保・服装・体調メモ)
訪問の30分前までに、動作練習ができるスペースを1畳ほど空けておくと、セラピストが現場で工夫できる余地が広がります。立ち上がり練習や歩行練習は、ベッド脇だけでなく廊下やリビングでも行うためです。
服装は、動きやすい前開きの上下に。靴下は滑りにくいもの、履物は普段使っている室内履きのままで構いません。前日からの体調(夜間の睡眠・排泄・食事量・痛みの訴え)をメモしておくと、短い時間でも的確な評価につながります。
②訪問中の同席と情報共有(できたこと・困りごとを伝える)
同席できる場合は、担当のセラピストにできたこと・できなかったこと・困っていることを1つずつ伝えてください。「お風呂で浴槽をまたぐときにふらつく」「夜中にトイレに起きたとき転びそうになった」といった日常の具体を言葉にすると、動作練習の内容が調整されます。
ご本人の前で心配を全部口にすると自尊心を傷つけることもあります。別室で短く話す、ノートに書いて渡す、といった方法で構いません。遠慮なくご相談ください。
③訪問後の「共有ノート」で担当者間をつなぐ
ご自宅にはケアマネジャー・訪問看護師・訪問リハビリのセラピスト・ヘルパーなど、複数の職種が入ります。「誰に何を言ったか」が分散すると、情報が止まります。
A5サイズのノートを1冊、玄関先かリビングに置き、訪問した職種が日時・氏名・気づきを3行書く運用がおすすめです。ご家族もその日の様子を1行書き足します。この「共有ノート」が、担当者会議の資料より早く情報を回します。
④自主トレの声かけ(1日5分からでよい)
セラピストから提示される自主トレは、1日5分からで構いません。「午前中のテレビを見終わったあとに5分」「夕食前に椅子からの立ち座り10回」のように、既存の生活リズムに結び付けます。
やらない日があっても責めないでください。訪問リハビリで扱う自主トレは、やり切ることが目的ではなく、継続して動く習慣を保つための呼び水です。できなかった理由(疲労・痛み・意欲低下)がヒントになるので、「今日はできなかった」とそのまま伝えていただければ十分です。
⑤転倒予防の目配り(段差・敷物・履物の見直し)
在宅での転倒は、ご家族が気づける環境要因を減らすことで予防できる部分があります。玄関や廊下の段差にスロープを置く、めくれやすいラグをやめる、サイズの合わない室内履きを買い替える、といった工夫です。
セラピストが訪問時に家屋評価を行うので、気になる場所は遠慮なく指し示してください。福祉用具貸与の対象になる手すりや歩行器もあり、ケアマネジャーと相談して導入できます。
⑥休める時間を確保する(ご家族自身のレスパイト)
ご家族が倒れると在宅療養は続きません。訪問リハビリの日に合わせて買い物に出る、ショートステイを定期的に組む、デイサービスの利用日を増やす、といった「ご家族が休む時間」の確保を計画に入れてください。
「介護者が休むなんて申し訳ない」というお気持ちは分かります。ただ、休むことは介護を続けるための準備です。訪問看護師やケアマネジャーに「少し疲れている」と口に出すところから始めていただければと思います。
30分前までに動作練習スペースを1畳分空ける。前日の体調メモを用意しておく。
できたこと・困りごとを1つずつ具体的に伝える。別室やノート共有でもよい。
A5ノート1冊を玄関先に置き、各職種が3行書く運用で担当者間をつなぐ。
1日5分からでよい。既存の生活リズムに結び付けて、できた日もできない日も記録。
段差・めくれるラグ・サイズの合わない室内履きを見直す。福祉用具貸与も検討。
デイサービスやショートステイを組み、ご家族のレスパイト(休息)を計画に入れる。
訪問リハビリの「できること」と「家族にお願いしたいこと」の線引き
訪問リハビリは医療・リハビリサービスであり、介護保険の家事援助や保険外の便利屋業務とは別の枠組みです。ここの線引きを事前に知っておくと、「これはお願いできなかった」というすれ違いを減らせます。
| 区分 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 訪問リハビリでできること | 動作評価・運動器リハ・ADL(日常生活動作)練習・家屋評価・ご家族への介助指導・自主トレの指導・福祉用具選定の助言 | 介護保険法第8条第5項・訪問リハビリテーション運営基準 |
| 訪問リハビリではできないこと | 家事援助(調理・洗濯・掃除)/買い物代行/医師の診察・処方/訪問時間外の電話対応(事業所の体制による) | 同上。家事援助は訪問介護の業務範囲 |
| ご家族にお願いしたいこと | 体調と生活の情報共有/自主トレの見守り/ご本人の意向確認/環境整備(段差・履物など)/担当者間の情報の中継 | 訪問リハビリ運営上の協力依頼。義務ではなく推奨 |
※出典:厚生労働省「訪問リハビリテーション 運営基準」(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準)
訪問リハビリでできること
主な内容は、関節可動域の維持・筋力訓練・歩行練習・移乗練習などの運動器リハ、入浴や排泄といったADL練習、ご家族への介助方法の指導、住宅の手すり位置や段差の評価、嚥下機能の評価と訓練(言語聴覚士が訪問できる場合)です。目標はケアプランと主治医の指示に沿って設定します。
訪問リハビリではできないこと
家事援助(調理・洗濯・掃除)、買い物の代行、医師の診察や処方、介助が必要な外出への同行は訪問リハビリの業務ではありません。訪問介護(ヘルパー)や通院同行の別サービスで補います。「できる・できない」を先に伝えるのは、ご家族の計画立てを助けるためです。
ご家族にお願いしたいこと
ご家族の役割は、情報を担当者に渡す「中継点」です。日々の体調・睡眠・食事量・痛みの訴え・できなくなった動作などを、ノートや訪問時の会話で共有してください。ご本人が「本当はこうしたい」と話されたことがあれば、それも伝えていただけると目標設定に反映できます。
制度上難しくても、まず相談してほしい
制度上の線引きとは別に、「訪問時間を少し早めてほしい」「薬の管理の相談もしたい」といった個別の希望は、まず一度ご相談ください。訪問看護師が同じ事業所にいれば連携で動けることもあり、別の社会資源の紹介につながることもあります。できないことは、できないとお伝えしたうえで、代わりに何ができるかをお示しします。
ご家族の負担を減らす「介護者ケア」の視点
ご家族を「介護力」として数えるだけでは、在宅療養は続きません。介護を担うご家族自身のケアも、訪問リハビリや訪問看護の視野に入れる必要があります。
厚労省2022年国民生活基礎調査が示す介護者の実情
厚生労働省「2022年国民生活基礎調査(介護票)」によると、同居の主な介護者のうち「悩みやストレスがある」と回答した人は約7割にのぼります。悩みの内訳は「家族の病気や介護」が最多で、次いで「自分の病気や介護」「収入・家計・借金等」が続きます。
介護者が倒れると在宅療養の継続は難しくなります。「ご家族が無理をしない」ことは、ご本人のためでもあるという前提で、計画を立ててください。
ショートステイ・デイサービスとの併用で休む時間をつくる
訪問リハビリと並行して、通所リハビリ(デイケア)やデイサービスを週1〜2回組み込むと、ご家族が休める時間が確保できます。ショートステイを月に数日組むことで、介護休養日をあらかじめ予定に入れることも可能です。
利用の組み合わせはケアプランで決まります。介護保険の支給限度基準額(要介護度別)の範囲内で、優先順位を話し合いながら決めていきます。
ケアマネジャー・訪問看護師との役割分担のかたち
ご家族がすべての判断を抱え込む必要はありません。ケアマネジャーはサービスの調整役、訪問看護師は健康管理の相談窓口、訪問リハビリのセラピストは生活動作の専門家、という役割分担です。
誰に聞けばいいか迷ったら、ケアマネジャーに1回連絡を入れていただければ、担当者間で振り分けます。この「迷ったらケアマネジャー」の運用が、ご家族の負担をかなり軽くします。
「頑張りすぎない」をチームで支える
介護を頑張っているご家族ほど、「自分がやらなければ」と抱え込みがちです。訪問時にご家族の表情が疲れていると、担当者はまず休息の提案から入ることがあります。甘えではありません。チームで在宅療養を支える、普通の運用です。
訪問リハビリを家族サポートの視点で選ぶときの3つの質問
事業所を選ぶ場面でご家族が確認したいのは、技術の高さよりも「相談しやすさ」です。初回の面談や問い合わせの電話でぜひ投げかけてほしい3つの質問を紹介します。
質問1:ご家族への指導やアドバイスは、どのタイミングでもらえますか
訪問リハビリの枠内で、介助方法の指導やご家族への質疑応答の時間を取ってもらえるかを確認してください。多くの事業所は訪問時間の後半10〜15分をご家族対応に充てる運用をしていますが、「全部ご本人のリハビリに使って、質問は電話で」というスタイルの事業所もあります。
ご家族がどう関わりたいかで、合う事業所が変わります。
質問2:訪問日以外の相談(電話・ノート共有)はどう扱われますか
24時間連絡が取れる事業所、営業時間内のみ対応の事業所、緊急時は訪問看護に切り替わる事業所など、連絡体制はさまざまです。訪問看護ステーションから訪問リハビリが出ている場合、看護師が緊急連絡の窓口になることがあります。
「どんなことで電話していいのか」の線引きを事前に聞いておくと、いざというときに迷いません。
質問3:ご家族の疲れや限界を感じたとき、何を一緒に考えてくれますか
ご家族自身のケアまで視野に入っている事業所かを見る質問です。レスパイト(介護者の休息)の必要性に触れてくれるか、ショートステイやデイサービスとの併用に前向きかで、事業所の姿勢が分かります。
ここで「ご家族のことは当方の役割ではない」と言われたら、ケアマネジャーに相談して別の選択肢も検討されることをおすすめします。
すえひろ訪問看護ステーションでの対応例
すえひろ訪問看護ステーションでは、訪問リハビリと訪問看護を同じ事業所から提供できる体制を取っています。訪問時にご家族の疲労を感じ取ったときは、看護師に情報を回してレスパイトの選択肢をケアマネジャーと一緒に考える、という連携が可能です。
「他の事業所で難しいと言われた方こそ、一度お話を聞かせてください」と伝えているのは、こうしたチームでの受け止め方を続けてきたからです。制度上は難しくても、何ができるかを一緒に考えます。お受けできるかどうかも含めて、まずご相談いただければと思います。
よくあるご質問(FAQ)
ご家族からよくいただく質問を、訪問リハビリの枠組みと制度に沿って整理しました。個別の状況は、必ずかかりつけ医・ケアマネジャー・担当事業所にご相談ください。
Q1. 家族が立ち会わないと訪問リハビリは受けられないのですか
ご家族の立ち会いは必須ではありません。日中おひとりで過ごされる方への訪問リハも実施できます。ただし、同居のご家族がいる場合は、週1回でも短時間でも同席いただけるとご本人の生活像を共有しやすくなります。遠方のご家族には電話やノート共有で情報をお渡しする方法もあります。
Q2. 自主トレは本人が嫌がります。無理にやらせるべきですか
無理にやらせる必要はありません。訪問リハビリの自主トレは「続けられる負荷」が原則で、担当セラピストはご本人の体調や気分に合わせて内容を調整します。ご家族は「できたか・できなかったか」を記録して共有していただければ十分です。やりたくない日が続くときは、原因(痛み・疲労・意欲)を一緒に探ります。
Q3. 訪問看護と訪問リハビリは併用できますか
併用は可能です。訪問看護ステーションから看護師とセラピストが別日に伺うケースと、医療機関(病院・診療所)からの訪問リハと組み合わせるケースがあります。介護保険の支給限度基準額や、医師指示書の経路が変わるため、ケアマネジャーと相談のうえで計画を立てることをおすすめします。
Q4. 介護保険と医療保険、どちらで利用するのが良いですか
要介護・要支援の認定を受けている方は原則として介護保険が優先になります。難病医療費助成の対象疾患やがん末期などの一部ケースでは医療保険が適用されます。どちらを使うかはご本人の病状と制度の優先順位で決まるため、ケアマネジャーまたは主治医にご確認ください。
Q5. 家族の介助方法がこれで合っているか不安です。どこに聞けばよいですか
訪問リハビリのセラピストに、普段の介助場面を実演して見てもらうのが一番確実です。立ち上がりや移乗、入浴の介助は、やり方を少し変えるだけでご家族の腰への負担が大きく変わります。写真や動画で記録しておき、訪問時に一緒に見ながら調整していく方法もおすすめです。
おわりに|ご家族の役割は「頑張ること」ではなく「つなぐこと」
訪問リハビリで、ご家族ができることは思っているより多く、思っているほど難しくはありません。ご家族の役割は情報を担当者につなぎ、ご本人のできる場面を少し増やすことです。全部を抱え込まず、専門職と地域の社会資源に頼りながら進めていけば大丈夫です。
訪問看護・訪問リハビリは、ご自宅での療養生活を医療面・生活面から支えるサービスです。すえひろ訪問看護ステーションは、足立区で24時間365日の体制を取り、訪問看護と訪問リハビリを連携させた支援を行っています。
「こんなことを相談してもいいのだろうか」と迷われる内容こそ、一度お聞かせください。お受けできるかどうかも含めて、一緒に考えます。まずは、かかりつけ医やケアマネジャーにご相談いただくか、当ステーションまで直接お問い合わせください。
参考・出典
- 厚生労働省「介護報酬の算定構造」令和3年度改定/第228回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1(2023年)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(訪問リハビリテーション運営基準)
- 厚生労働省「2022年(令和4年)国民生活基礎調査」介護票 第24表
