この記事の要点(30秒でわかる)
- PSPは初期から転びやすく、目線を下に向けにくくなる病気です
- パーキンソン病の薬が効きにくいことが多く、見分ける手がかりになります
- 飲み込みや意欲の変化にも、早めに備えることが大切です
- 訪問看護は介護認定があっても医療保険で、週4日以上も利用できます
よく転ぶようになった。足元を見ずに歩いて、段差でつまずく。パーキンソン病と言われて薬を飲んでいるのに、あまり良くならない。そうした変化から、進行性核上性麻痺(PSP)と診断された方や、「もしかしたら」と感じておられるご家族は少なくありません。
PSPは、転倒や飲み込みの困りごとが比較的早い時期から現れやすい病気です。だからこそ、ご自宅での転倒を防ぐ工夫や、食事の安全を守る備えを、早くから整えておくことが大切になります。
すえひろ訪問看護ステーションでは、看護師とリハビリ職がご自宅に伺い、その方の暮らしに合わせた支え方を一緒に考えさせていただきます。病気が進んでも、できることを諦めずに探していきたいと考えています。
この記事では、PSPの特徴、パーキンソン病との違い、転倒・飲み込み・気持ちの変化への備え、そして使える制度についてお伝えします。
当コラムは、訪問看護に関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別の症状・保険適用・制度のご判断についてお答えするものではありません。制度の運用は地域・保険者・個別のご状況により異なりますので、あらかじめご了承ください。
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進行性核上性麻痺(PSP)とはどんな病気か
進行性核上性麻痺(しんこうせいかくじょうせいまひ)は、体の動きや目の動き、考える働きに関わる脳の神経細胞が少しずつ減っていく病気です。英語の頭文字からPSPと呼ばれます。初期から転びやすいこと、目線を上下に動かしにくくなることが大きな特徴です。
国の指定難病(告示番号5)に定められており、医療費助成を受けている方は全国で13,564人です(出典:難病情報センター 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数 令和6年度)。前年度の13,355人から増えています。
厚生労働省の資料によると、40歳以降、平均すると60歳代で発症することが多く、男性に多いとされています。原因はまだわかっておらず、根本的に治す治療法も確立されていません(出典:厚生労働省 指定難病5 進行性核上性麻痺 概要)。
PSPは、パーキンソン病より進み方が速いことが多い病気です。 ただし進み方には個人差があり、同じ診断名でも困りごとは一人ずつ違います。その方の今の状態を丁寧に見ていくことが欠かせません。
パーキンソン病と似ているところ、違うところ
PSPは、動作が遅くなる、体がこわばるといった点でパーキンソン病に似ています。そのため、最初はパーキンソン病と診断されることもあります。一方で、転び方や姿勢、目の動き、薬の効き方には、はっきりした違いがみられます。
パーキンソン病では、じっとしているときの手のふるえがよくみられます。PSPではこのふるえはまれで、歩くときの転びやすさや、足がすくむ様子が目立ちます(出典:厚生労働省 指定難病5 概要)。姿勢も、パーキンソン病の前かがみに対し、PSPでは首が後ろに反った姿勢になりやすいとされます。
PSPでは、パーキンソン病の薬が効きにくいことが多いとされています。 初期に少し効く場合もありますが、効果が長く続かないことが多いと報告されています(出典:難病情報センター 進行性核上性麻痺)。「薬を飲んでいるのに良くならない」と感じたら、主治医にお伝えください。
パーキンソン病そのものの在宅療養については、パーキンソン病の在宅療養|訪問看護でできるサポートと家族の関わり方で詳しくお伝えしています。
| 項目 | 進行性核上性麻痺(PSP) | パーキンソン病 |
|---|---|---|
| 転び方 | 初期から転びやすく、後ろに倒れやすい | 前かがみで小刻みに歩き、進んでから転びやすくなる |
| 姿勢 | 首が後ろに反りやすい | 前かがみになりやすい |
| 手のふるえ | じっとしているときのふるえはまれ | じっとしているときのふるえが多い |
| 目の動き | 目線を上下、特に下に向けにくい | 目立った障害は少ない |
| パーキンソン病の薬 | 効きにくいことが多い | 効果がみられることが多い |
| 飲み込み | 比較的早くから困りごとが出やすい | 進行してから出やすい |
| 気持ち・考え方 | 意欲の低下、考えがゆっくりになるなど | 個人差が大きい |
後ろへの転倒と目の動きへの備え
PSPの転倒は、後ろに倒れやすいことと、とっさに手が出にくいことが特徴です。 体のバランスを保つ反射が弱くなるため、立ち上がりや方向転換の際に後ろへ倒れることがあります(出典:MSDマニュアル家庭版 進行性核上性麻痺)。
厚生労働省の資料では、倒れるときに手で体を守る反応が起きにくく、顔を強く打つけがが多いとされています。注意を促されても、同じ場所で転倒を繰り返すこともあります。これは本人の不注意ではなく、病気による症状です。
目の動きにも特徴があります。初期には目線を上下に動かすのがゆっくりになり、やがて下を見ることが難しくなります(出典:厚生労働省 指定難病5 概要)。足元や段差、食卓の上の食器が見えにくくなるため、転倒や食事のこぼしにつながります。
住まいの備えとしては、段差をなくす、手すりを付ける、床に物を置かないことが基本です。下を見にくい方には、段差の縁に目立つ色のテープを貼る工夫も役立ちます。椅子やベッドの近くに物を置きすぎないことも大切です。手を伸ばして体勢を崩し、転落することがあるためです。
飲み込みと食事を安全に続けるために
PSPでは、話しにくさや飲み込みにくさ(嚥下障害:えんげしょうがい)が現れやすくなります。飲み込みの困りごとは中期以降に出てくることが多いとされます(出典:難病情報センター 進行性核上性麻痺)。食事中や食後のむせ、声の変化に気を配ることが大切です。
PSPでは、肺炎や痰による窒息が命に関わる原因になりやすいとされています。 厚生労働省の資料でも、主な死因として挙げられています。食べ物や唾液が気管に入って起こる誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を防ぐことが、暮らしを守る大きな柱になります。
PSPならではの注意点もあります。下を見にくいため、お皿の中身が見えにくくなります。食器を目線に近い高さに置く、ひと口の量を小分けにするといった工夫が役立ちます。
訪問看護では、食事の姿勢やむせの様子、体重や熱の変化を確かめ、主治医と共有します。言語聴覚士(ST)は、話し方や飲み込みの練習を専門とするリハビリ職です。飲み込みのケア全般は、摂食嚥下障害と訪問看護でも詳しくお伝えしています。
意欲や性格の変化とご家族の関わり
PSPでは、体の動きだけでなく、考え方や気持ちにも変化が現れることがあります。これは、物事を計画したり気持ちを調整したりする脳の部分(前頭葉:ぜんとうよう)が影響を受けるためです。
厚生労働省の資料では、考えるのがゆっくりになる、思い出しにくくなる、意欲が低下するといった変化が挙げられています(出典:厚生労働省 指定難病5 概要)。怒りっぽくなる、周りへの関心が薄れる、感情が急に変わるといった様子がみられることもあります。
こうした変化は、ご本人の性格や気持ちの問題ではなく、病気の症状です。 そう知っておくだけで、ご家族の受け止め方が少し楽になることがあります。「どうして言うことを聞いてくれないのか」と悩まれる前に、症状として相談してください。
動き出す前に急に立ち上がってしまう、危ないとわかっていても一人で動こうとする、といった行動も起こりえます。声かけの仕方や、ひと呼吸おいてから動く習慣づけを、ご家族と一緒に考えさせていただきます。介護を担うご家族の疲れについても、どうぞ遠慮なくお話しください。
訪問看護で使える制度
PSPの方の訪問看護は、介護保険の認定を受けていても医療保険で利用します。 厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第7)に、PSPが含まれているためです(出典:厚生労働省 特掲診療料の施設基準等 別表第七 令和8年告示)。
パーキンソン病は、重症度が一定以上の場合に限って別表第7の対象になります。一方、PSPにはこの重症度の条件が付いていません。医療保険での訪問看護では、週4日以上の訪問や、1日に複数回の訪問、複数の訪問看護ステーションの利用が認められています。
あわせて、国の指定難病として医療費助成を受けられる場合があります。重症度の基準を満たすなどの条件があり、認められると自己負担の上限額が設けられます。訪問看護の費用もこの助成の対象です。申請の流れは指定難病の医療費助成を受けるには|受給者証の申請の流れと自己負担で詳しくお伝えしています。
また、PSPは介護保険の特定疾病にも含まれており、40歳から64歳の方でも介護保険の申請ができます(出典:厚生労働省 特定疾病の選定基準の考え方)。手すりや福祉用具、ヘルパーなどは介護保険で利用できます。制度上難しいと思われることでも、まずはご相談ください。
まとめ
進行性核上性麻痺(PSP)は、初期から転びやすく、目線を下に向けにくくなる病気です。パーキンソン病に似ていますが、薬が効きにくいことが多く、飲み込みや意欲の変化も比較的早く現れやすいという違いがあります。転倒への備え、食事の安全、気持ちの変化への理解を早くから整えることが、ご自宅での暮らしを守ることにつながります。
すえひろ訪問看護ステーションでは、看護師とリハビリ職が連携して、その方が続けたい暮らしを一緒に支えたいと考えています。専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。
「まだ自分で歩けるから」と迷っておられる段階こそ、備えられることが多く残っています。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q. パーキンソン病と診断されていますが、PSPかもしれないと感じます。どうすればよいですか。
A. 転びやすさが目立つ、薬があまり効かない、下を見にくいといった様子があれば、主治医にそのままお伝えください。いつ頃から、どんな場面で気になったかを記録しておくと、診察の助けになります。診断は神経内科の医師が行います。
Q. 介護保険の認定を受けていますが、訪問看護は介護保険で使うのですか。
A. PSPの方は、介護保険の認定を受けていても、訪問看護は医療保険での利用になります。パーキンソン病のような重症度の条件はありません。手すりや福祉用具、ヘルパーなどは介護保険で利用できます。
Q. PSPにリハビリは意味がありますか。
A. 根本的に治す治療法はまだありませんが、難病情報センターでも、バランスや言葉、飲み込みなどのリハビリを組み合わせることが紹介されています。できる動作を保ち、転ばずに暮らせる期間を延ばすことを目指します。
Q. 本人が危ないのに一人で動こうとして困っています。
A. 危険への気づきにくさや、急に動き出してしまうことは、PSPの症状として起こることがあります。叱るのではなく、動線を整える、声かけの仕方を工夫するといった対応を一緒に考えさせてください。
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