この記事の要点(30秒でわかる)
- 多系統萎縮症は、立ちくらみや排尿の困りごとなど自律神経の症状が目立つ病気です
- 睡眠中の大きないびきや「ヒューヒュー」という音は、早めに主治医へ伝えたいサインです
- 進み方が比較的早いため、呼吸や食事の支え方を早めに話し合っておくことが大切です
- 訪問看護は医療保険の対象で、週4日以上や1日複数回の訪問も利用できます
立ち上がると目の前が暗くなる。トイレが近いのに、すっきり出きらない。夜中のいびきが急に大きくなった。多系統萎縮症と診断され、次々に現れる症状に戸惑っておられる方やご家族は少なくありません。
この病気は、体の動きだけでなく、血圧や排尿、呼吸といった自分では意識しない体の働きにも影響が出やすいのが特徴です。こうした症状は、日々の暮らしの中で早く気づき、主治医と共有することで備えやすくなります。
すえひろ訪問看護ステーションは、病気が進んでも、ご自宅で過ごしたいという思いを大切にしたいと考えています。制度上難しいと思われることでも、まずはご相談ください。
この記事では、多系統萎縮症に多い自律神経の症状と日常の備え、早めに話し合っておきたいこと、使える制度についてお伝えします。
当コラムは、訪問看護に関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別の症状・保険適用・制度のご判断についてお答えするものではありません。制度の運用は地域・保険者・個別のご状況により異なりますので、あらかじめご了承ください。
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多系統萎縮症とはどんな病気か
多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう、MSA)は、体の動きを調整する神経と、血圧や排尿などを無意識に調整する自律神経(じりつしんけい)の両方が、少しずつ働かなくなる病気です。ふらつき、動作の遅さ、自律神経の症状が、進むにつれて重なって現れます。
国の指定難病(告示番号17)に定められており、医療費助成を受けている方は全国で10,170人です(出典:難病情報センター 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数 令和6年度)。発症は30歳以降、多くは40歳以降とされています(出典:難病情報センター 多系統萎縮症 診断基準)。
最初に目立つ症状によって、ふらつきが中心のオリーブ橋小脳萎縮症、手足のこわばりなどが中心の線条体黒質変性症、自律神経の症状が中心のシャイ・ドレーガー症候群と呼ばれてきました。日本では、ふらつきで始まる型が最も多いとされています。
ふらつきへの備えは、症状が重なる脊髄小脳変性症の在宅療養|ふらつきと転倒に備える暮らしと訪問看護でお伝えしています。この記事では、多系統萎縮症で特に気をつけたい自律神経の症状を中心にお話しします。
立ちくらみと食後の血圧低下に備える
多系統萎縮症では、立ち上がったときに血圧が大きく下がる起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)が起こりやすくなります。 目の前が暗くなる、ふわっと気が遠くなるといった症状で、失神や転倒につながることがあります。
難病情報センターも、立ちくらみによる失神や転倒が起きやすい場面に注意して暮らすことが大切だとしています(出典:難病情報センター シャイ・ドレーガー症候群)。朝起きたとき、トイレで立ち上がったとき、入浴の後などは特に気をつけたい場面です。
起き上がるときは、横になった姿勢からいきなり立たず、いったん座って足を動かしてから、ゆっくり立ち上がるのが基本です。弾性ストッキングで脚を締めると、立ちくらみを防げることがあるとされています(出典:健康長寿ネット 多系統萎縮症のケア)。
食事の後にも血圧が下がり、ぼんやりしたり、ふらついたりする方がいます。食後すぐに立ち歩かず、しばらく座って休むと安心です。水分や塩分のとり方、寝るときにベッドの頭側を少し上げる方法などは、心臓や腎臓の状態によって合う・合わないがあるため、必ず主治医と相談して決めてください。
訪問看護では、横になったとき・座ったとき・立ったときの血圧を測り比べ、どの場面で下がりやすいかを主治医と共有できます。
排尿と便秘の困りごと
排尿の困りごとは、多系統萎縮症でとても多い症状のひとつです。 トイレが近い、間に合わずにもれる、出しにくい、出しきれずに残るなど、現れ方は人によってさまざまです(出典:難病情報センター 線条体黒質変性症)。
尿が膀胱に残ったままになると、尿路感染症を起こしやすくなります。薬で十分に改善しない場合には、時間を決めて細い管(カテーテル)で尿を出す自己導尿(じこどうにょう)を行うこともあるとされています(出典:難病情報センター シャイ・ドレーガー症候群)。
自己導尿は、慣れるまで不安を感じる方が多い処置です。手順の確認や、尿の色・量・においの変化、発熱の有無などは、訪問看護師と一緒に確かめていけます。カテーテルを使うことになった場合も、どうぞご相談ください。
頑固な便秘も、自律神経の症状として挙げられています。便秘が続くとお腹の張りや食欲の低下につながるため、排便の間隔や便の状態を記録しておくと、主治医に相談しやすくなります。
睡眠中のいびき・呼吸と、夢に合わせた動き
睡眠中の大きないびきや「ヒューヒュー」という音(喘鳴〈ぜんめい〉)は、早めに主治医へ伝えたいサインです。 多系統萎縮症では、息を吸うときに声帯(せいたい)が十分に開かなくなり、空気の通り道が狭くなることがあります。
難病情報センターは、睡眠中の喘鳴や呼吸の止まりは注意すべき症状で、病気の早い時期から現れることがあるとしています(出典:難病情報センター 多系統萎縮症 診断基準)。ご本人は眠っているため気づきにくく、そばにいるご家族の観察が手がかりになります。
いびきの音が以前と変わった、息が止まっているように見える、苦しそうな音がする、といった変化があれば、日付や様子をメモして受診のときに伝えてください。スマートフォンで音を録音しておくと、医師に様子が伝わりやすくなります。
もうひとつ、眠っている間に大きな寝言を言ったり、夢の内容に合わせて手足を激しく動かしたりする、レム睡眠行動異常(レムすいみんこうどういじょう)がみられることもあります。ご本人は覚えていないことが多いとされます(出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版 多系統萎縮症)。ベッドから落ちないように、周りの家具の配置を見直しておくと安心です。
進み方を見すえて早めに話し合っておくこと
多系統萎縮症は、進み方が比較的早い病気とされています。 国内230人を対象とした研究では、中央値で発症から約5年で車いすを使い、約8年で横になって過ごす時間が中心になったと報告されています(出典:難病情報センター 多系統萎縮症 診断基準)。ただし、進み方には個人差が大きくあります。
病気が進むと、睡眠中の呼吸を機械で補う非侵襲的陽圧換気(ひしんしゅうてきようあつかんき、NPPV)が役立つことや、気管切開が必要になる場合があるとされています。飲み込みが難しくなったときには、胃ろうによる栄養が必要になることも多いとされています(出典:難病情報センター 多系統萎縮症 診断基準)。
こうした医療処置を使うかどうか、どこで療養を続けたいかは、急な体調の変化が起きてから決めるのはとても難しいものです。症状が落ち着いているうちに、ご本人の思いを主治医やご家族と少しずつ話し合っておくことが大切です。このような話し合いは、人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)とも呼ばれます。
気持ちが揺れ動くのは自然なことで、一度決めたことを変えてもかまいません。呼吸器を使いながらの在宅療養については、人工呼吸器をつけて自宅で暮らすには|在宅人工呼吸療法と訪問看護の役割でもお伝えしています。どう考えればよいか迷うときは、一緒に考えさせてください。
訪問看護で使える制度
多系統萎縮症の方の訪問看護は、介護保険の認定を受けていても医療保険で利用します。 厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第7)に含まれているためです(出典:厚生労働省 特掲診療料の施設基準等 別表第七)。
医療保険での訪問看護では、週4日以上の訪問や、1日に複数回の訪問、複数の訪問看護ステーションの利用が認められています。症状が変わりやすい時期にも、状態に合わせて訪問を組み立てやすいのが特徴です。
あわせて、国の指定難病として医療費助成を受けられる場合があります。日常生活の支障の程度や、食事・呼吸の状態などの基準を満たすと、自己負担に上限が設けられ、訪問看護の費用も対象になります。申請の流れは指定難病の医療費助成を受けるには|受給者証の申請の流れと自己負担で詳しくお伝えしています。
また、多系統萎縮症は介護保険の16の特定疾病のひとつで、40歳から64歳の方でも介護保険の申請ができます(出典:厚生労働省 特定疾病の選定基準の考え方)。車いすや介護用ベッド、ヘルパーなどは介護保険で利用できます。
| 制度 | 使える保険・制度 | 主な内容 | 相談先 |
|---|---|---|---|
| 訪問看護 | 医療保険(介護認定があっても医療保険) | 週4日以上や1日複数回の訪問、複数ステーションの利用も可能 | 主治医・訪問看護ステーション |
| 指定難病の医療費助成 | 特定医療費(指定難病) | 自己負担に上限が設けられる。訪問看護の費用も対象 | 保健所 |
| 介護保険 | 介護保険(特定疾病のため40歳から申請可) | 車いす・介護用ベッド・ヘルパーなど | 地域包括支援センター・ケアマネジャー |
まとめ
多系統萎縮症は、ふらつきや動作の遅さに加えて、立ちくらみ、排尿や便秘の困りごと、睡眠中の呼吸の変化など、自律神経の症状が目立つ病気です。進み方が比較的早いため、日々の小さな変化に気づき、呼吸や食事の支え方を早めに話し合っておくことが、ご自宅での暮らしを守ることにつながります。
すえひろ訪問看護ステーションは、ご本人とご家族が望む過ごし方を、主治医と連携しながら一緒に考えたいと考えています。専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。
「まだ訪問看護を頼むほどではない」と迷っておられる段階こそ、備えられることが多く残っています。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q. 多系統萎縮症は治りますか。
A. 現在のところ、病気の進行を止める治療法は確立されていません。ただし、立ちくらみや排尿の困りごと、手足のこわばりなど、それぞれの症状を和らげる治療が行われます。リハビリも、残っている体の機能を保つために勧められています。
Q. 夜のいびきが大きくなりました。様子を見ていてよいですか。
A. 多系統萎縮症では、睡眠中のいびきや「ヒューヒュー」という音が、声帯の開きにくさのサインであることがあります。様子を見続けずに、日付や音の様子を記録して、早めに主治医にご相談ください。
Q. 介護保険の認定を受けていますが、訪問看護は介護保険で使うのですか。
A. 多系統萎縮症の方は、介護保険の認定を受けていても、訪問看護は医療保険での利用になります。車いすや介護用ベッド、ヘルパーなどのサービスは介護保険で利用できます。
Q. 自己導尿が必要と言われ、不安です。自宅で続けられますか。
A. 自己導尿は、ご自宅で続けることを前提にした方法で、主治医や看護師から手順を教わって始めます。訪問看護では、手順の確認や、尿の状態・発熱など感染のサインの確認をお手伝いできます。不安なことは、どうぞご相談ください。
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