この記事の要点(30秒でわかる)
- 人工呼吸器をつけて自宅で暮らす方は全国に約2万1,000人。特別なことではありません
- 人工呼吸器を使用中は医療保険の訪問看護を週4日以上・1日複数回利用できます
- 人工呼吸器本体は医療機関から貸与され、費用は保険診療に含まれます
- 停電・災害への備えや緊急時の対応も、訪問看護が一緒に準備します
「人工呼吸器が必要と言われたけれど、家に帰れるのだろうか」。「家族だけで機械を扱えるのか不安」。そんな思いを抱えていらっしゃる方は少なくありません。
人工呼吸器をつけたまま自宅で暮らすことは、今では十分に実現できる選択肢です。訪問看護が定期的に伺い、体調の観察から機器まわりのケア、ご家族の支援までを担います。
すえひろ訪問看護ステーションには難病チームがあり、人工呼吸器・胃ろう・吸引などの医療的ケアに対応できる体制を整えています。難病があってもその人らしく生きる可能性を信じ、尊厳ある生を支援することが私たちの理念です。
この記事では、在宅人工呼吸療法の基礎知識、自宅での暮らしの実際、訪問看護の役割、ご家族の準備、緊急時・災害時の備えをまとめてお伝えします。
目次
在宅人工呼吸療法とは|自宅で人工呼吸器を使う2つの方法
在宅人工呼吸療法(ざいたくじんこうこきゅうりょうほう)とは、人工呼吸器を自宅に設置し、呼吸を補助しながら療養生活を送る治療法です。マスクを使うNPPVと、気管切開をして行うTPPVの2種類があり、医師の管理のもとで自宅でも安全に続けられます。
NPPV(エヌピーピーブイ:非侵襲的陽圧換気)は、鼻や口に装着したマスクから空気を送る方法です。体を傷つけずに始められ、状態によっては装着したまま会話や食事ができます。
TPPV(ティーピーピーブイ:気管切開下陽圧換気)は、のどに開けた小さな穴(気管切開孔)にカニューレという管を入れ、そこから空気を送る方法です。長期間にわたり確実に呼吸を支える必要がある方に選ばれます。
在宅で人工呼吸器を使用している方は、全国でTPPV約7,700人・NPPV約13,488人、合わせて約2万1,000人にのぼります(出典:厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「全国都道府県別在宅人工呼吸器調査2021」・2020年度末時点)。人工呼吸器とともに自宅で暮らすことは、決して珍しいことではありません。
在宅人工呼吸療法の2つの方法|NPPVとTPPV
| NPPV(マスク式) | TPPV(気管切開式) | |
|---|---|---|
| 装着方法 | 鼻や口に装着したマスクから空気を送る | 気管切開孔に入れたカニューレから空気を送る |
| 会話・食事 | 状態によっては装着したまま可能 | 文字盤・意思伝達装置や発声の工夫など方法あり |
| 主な対象 | 呼吸補助を始める段階の方など | 長期に確実な呼吸補助が必要な方 |
| 日常のケア | マスクが当たる皮膚のケア・加湿の調整 | たんの吸引・カニューレまわりのケア |
※どちらが適しているかは呼吸の状態により異なります。主治医とご相談ください。
人工呼吸器をつけた自宅での暮らし|機器・費用・コミュニケーション
人工呼吸器本体を購入する必要はありません。機器は医療機関から貸与され、回路や付属品を含む費用は「在宅人工呼吸指導管理料」という保険診療に含まれています(出典:厚生労働省 診療報酬点数表 C107在宅人工呼吸指導管理料・C164人工呼吸器加算)。
自己負担は医療保険の負担割合に応じた額となります。指定難病の方は難病医療費助成により、自己負担に月ごとの上限が設けられる場合があります。制度や費用の全体像、ALSの方の在宅療養準備は別記事「ALS・パーキンソン病など難病の方の在宅療養」で詳しくまとめています。
コミュニケーションの方法も豊富にあります。NPPVの方は状態によっては装着したまま会話ができます。TPPVの方も、文字盤や意思伝達装置、状態に応じた発声の工夫など、思いを伝える手段を一緒に探せます。
体調が安定すれば、医師と相談のうえで入浴や外出に挑戦される方もいらっしゃいます。「機械があるから何もできない」のではなく、支援を組み合わせて「できること」を増やしていく暮らしです。
在宅で人工呼吸器を使用している方の全国人数
2020年度末時点
NPPV(マスク式)
TPPV(気管切開式)
出典:厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「全国都道府県別在宅人工呼吸器調査2021」
訪問看護は何をしてくれる?|在宅人工呼吸療法を支えるケア
訪問看護は、呼吸状態の観察、たんの吸引、気管カニューレやマスクが当たる部分の皮膚ケア、人工呼吸器の作動状況の確認、ご家族への助言までを担います。人工呼吸器を使用している方の在宅療養を、医師と連携しながら日常的に支える存在です。
訪問時には、呼吸の音や酸素の値、たんの量や色、回路の水たまり、加湿の状態などを確認します。気になる変化があれば、すぐに主治医へ報告して対応につなげます。あわせて、関節が固まらないための運動や排痰(はいたん:たんを出しやすくするケア)も行います。
制度面でも手厚い利用が認められています。人工呼吸器を使用している状態は「厚生労働大臣が定める疾病等」に該当し、医療保険の訪問看護を週4日以上・1日2〜3回利用できます(出典:厚生労働省 特掲診療料の施設基準等 別表第7)。毎日の訪問が必要な場合は、最大3か所の訪問看護ステーションを組み合わせることも可能です。
すえひろ訪問看護ステーションの難病チームは、人工呼吸器・胃ろう・吸引などの医療的ケアに対応できる体制を整えています。制度上難しいと思われることでも、まずはご相談ください。
在宅人工呼吸療法で訪問看護が行う主なケア
ご家族の準備|退院前から始める在宅移行とケアの習得
在宅人工呼吸療法への移行は、退院前の準備から始まります。入院中にたんの吸引などのケアを練習し、退院前カンファレンス(関係者の話し合い)で在宅チームと情報を共有する流れが一般的です。準備の段階から訪問看護師が関わると、自宅での生活を見据えた助言ができます。
ご家族が覚える代表的なケアは、たんの吸引、アンビューバッグ(手動の蘇生バッグ)の使い方、アラームが鳴ったときの確認手順です。たんの吸引は、医師や看護師の指導を受ければご家族が実施できます(出典:厚生労働省 喀痰吸引等制度)。
ご家族だけで抱え込む必要はありません。研修(第三号研修)を修了した介護職員も、登録事業者のもとでたんの吸引等を実施できる制度があります(出典:厚生労働省 社会福祉士及び介護福祉士法に基づく喀痰吸引等制度・平成24年度制度化)。訪問看護・訪問介護・往診医でチームを組み、ご家族の休息(レスパイト)も計画に含めることが、在宅療養を長く続ける土台になります。
最初から完璧にできる方はいらっしゃいません。一つずつ一緒に練習していきますので、不安なことはどうぞそのままお聞かせください。
人工呼吸器をつけて退院するまでの5ステップ
緊急時・災害時への備え|停電対策と連絡体制づくり
停電が起きたら、まず人工呼吸器が内部バッテリーで作動を続けているかを確認します。内部バッテリーの駆動時間は機種によって異なるため、外部バッテリーや手動の蘇生バッグをすぐ使える場所に備えておくことが大切です。
東日本大震災のあと、国は外部バッテリーを人工呼吸器の付属品として貸与することを明確にしました(出典:厚生労働省「大規模災害時等長期停電における在宅人工呼吸器使用者への対応について」)。在宅でTPPVを使用する方の外部バッテリー装備率は平均90.4%に達しています(出典:厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「全国都道府県別在宅人工呼吸器調査2021」・2020年度末時点)。
自治体によっては、非常用電源の購入費補助や貸与などの支援事業があります。災害時に支援が必要な方の名簿登録や個別避難計画づくりを進める地域もありますので、お住まいの自治体の窓口に確認しておくと安心です。
日頃からの備えとして、医療機器会社・主治医・訪問看護の連絡先リストを目につく場所に貼っておきましょう。訪問看護師は24時間連絡が取れる体制づくりや、ご家庭ごとの備えの点検も一緒に行います。
停電・災害への備えチェックリスト
※備えの点検は訪問看護師も一緒に行います。お気軽にご相談ください。
まとめ|人工呼吸器があっても「その人らしい暮らし」はつくれます
人工呼吸器をつけて自宅で暮らす方は全国に約2万1,000人いらっしゃいます。機器は医療機関から貸与され、医療保険の訪問看護を週4日以上利用できるなど、在宅人工呼吸療法を支える制度は整ってきています。退院前からの準備と、停電・災害への備えを整えれば、自宅での暮らしは現実的な選択肢です。
すえひろ訪問看護ステーションの難病チームは、「難病があってもその人らしく生きる可能性を信じ、尊厳ある生を支援する」ことを大切にしています。人工呼吸器や吸引などの医療的ケアが必要な方にも、専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。
「うちでは無理かもしれない」と感じている段階でも大丈夫です。人工呼吸器を使用される方の在宅療養について、まずはご相談ください。どうすれば実現できるかを、一緒に考えさせてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 人工呼吸器をつけたまま自宅に退院できますか?
できます。在宅用の人工呼吸器が医療機関から貸与され、往診医や訪問看護の支援を受けながら自宅で療養する方法が在宅人工呼吸療法です。全国で約2万1,000人の方が在宅で人工呼吸器を使用しています(出典:厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「全国都道府県別在宅人工呼吸器調査2021」)。
Q2. 訪問看護はどのくらいの頻度で来てもらえますか?
人工呼吸器を使用している方は「厚生労働大臣が定める疾病等」に該当します。医療保険の訪問看護を週4日以上・1日2〜3回利用でき、毎日の訪問が必要な場合は最大3か所のステーションを組み合わせられます。
Q3. 家族がたんの吸引をしてもよいのでしょうか?
ご家族は、医師や看護師から手技の指導を受けたうえで、たんの吸引を実施できます。また、研修を修了した介護職員が吸引等を行える制度もあります(出典:厚生労働省 喀痰吸引等制度)。ご家族だけで抱え込まず、チームで分担する体制を一緒につくりましょう。
Q4. 停電のときはどうすればよいですか?
まず人工呼吸器が内部バッテリーに切り替わって作動しているかを確認します。駆動時間は機種により異なるため、外部バッテリーと手動の蘇生バッグを日頃から備えておきましょう。復旧が見込めない場合は、医療機器会社・主治医・訪問看護へ早めに連絡し、必要に応じて避難や入院を検討します。
Q5. 費用が高額にならないか心配です。
人工呼吸器本体や回路などの費用は保険診療に含まれ、自己負担は医療保険の負担割合に応じた額です。指定難病の方は難病医療費助成により自己負担の月額上限が設けられる場合があります。詳しい制度はお住まいの自治体や主治医、訪問看護にご確認ください。

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