この記事の要点(30秒でわかる)
- 高次脳機能障害は麻痺と違い外から見えにくく、気づかれにくい後遺症
- 記憶・注意・感情コントロールなどの変化として在宅生活に現れる
- 訪問看護師の観察・関わり方の助言と、手帳・制度の活用で支えられる
「退院してきたら別人みたいになった」「怒りっぽくなって何度も同じことを聞く」「麻痺はないのに、何もできなくなった」——脳卒中後にこうした変化を感じているご家族は少なくありません。これは「高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)」と呼ばれる後遺症かもしれません。身体的な麻痺と違って見えにくいために、本人も家族も気づかないまま対処に苦しむケースが多い障害です。この記事では、高次脳機能障害の種類・在宅での現れ方・訪問看護師との関わり方をわかりやすく解説します。「どう接すればいいか分からない」という不安を少しでも和らげる助けになれば幸いです。すえひろ訪問看護ステーションでも、高次脳機能障害のある利用者様とご家族に、専門職として寄り添わせていただいています。
詳しくは在宅で続ける手指麻痺の訓練戦略をご覧ください。
当コラムは、訪問看護に関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別の症状・保険適用・制度のご判断についてお答えするものではありません。制度の運用は地域・保険者・個別のご状況により異なりますので、あらかじめご了承ください。
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高次脳機能障害とは?脳卒中後に起こる「見えにくい後遺症」
高次脳機能障害とは、脳卒中や交通事故などによって脳が損傷を受けた後に、記憶・注意・思考・言語・行動のコントロールなどの能力に障害が生じることをいいます(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)。「高次脳機能」とは、記憶・注意・言語・思考・感情コントロールといった人間らしい知的活動を支える脳の働きのことです。医師から高次脳機能障害と診断された方は全国で約22万7千人と推計されています(令和4年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)。
身体の麻痺や言語障害は外から見てわかりやすいですが、高次脳機能障害は「外見では分からない」のが特徴です。一見して「元気そう」に見えても、本人の内側では多くのことが変化しています。このギャップがご家族との間に摩擦を生じさせることがあります。
主な症状の種類と在宅での現れ方
高次脳機能障害にはいくつかの種類があり、複数が重なって現れることもあります。
記憶障害は、新しいことを覚えられない、少し前のことをすぐ忘れる状態です。在宅では「何度も同じことを聞く」「食事をしたことを覚えていない」「薬を飲んだかどうか分からない」という形で現れます。
注意障害は、集中力が続かない、複数のことを同時にできない状態です。「テレビを見ながら話しかけると全く聞いていない」「調理の途中でガスをつけたまま席を離れる」といった場面に現れます。
遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)は、段取りを組んで物事を進める力の障害です。「料理の手順が分からなくなった」「買い物リストを作れない」「計画通りに動けない」という変化として見られます。
社会的行動障害は、感情のコントロールが難しくなる状態です。「些細なことで激しく怒る」「場の空気を読まない発言をする」「意欲が極端に低下する」などが該当します。介護する側の疲弊につながりやすい症状です。
出典:国立障害者リハビリテーションセンター/複数の症状が重なって現れることもあります
なぜ気づかれにくいのか
高次脳機能障害が見過ごされやすい理由のひとつは、本人自身が障害を自覚しにくいことです。「自分は普通だ」と思っているため、支援を受け入れることに抵抗を示すことがあります。また、症状が「性格の変化」「やる気のなさ」「わがまま」として誤解されることも多く、ご家族が長期にわたって孤立した状態で対応してしまうケースがあります。
麻痺が軽く「歩ける」「話せる」状態であれば、退院後のサポート体制が薄くなりがちです。だからこそ、定期的に自宅を訪問する訪問看護師が「変化に気づく目」として機能することが重要になります。
高次脳機能障害のある方への関わり方
ご家族から最も多くいただくのが「どう接すればいいのか分からない」というお声です。国の研究班がまとめた対応マニュアルでは、1)困った行動のきっかけを知る 2)認知機能を確認する 3)環境を調整する・対応方法を身につける 4)今後の見通しを立てて、一緒に生活を考えるという流れが対応の基本とされています(出典:厚生労働科学研究班「社会的行動障害への対応と支援」)。
まず「困った行動のきっかけ」を探す
同じマニュアルは、「困った行動がある」といっても24時間毎日同じ状態ではないと指摘しています。まず「どういう気持ちで行動したのか」「そのできごとをどう受け取っているか」をよく聞き、行動を観察して、きっかけとなるできごとを探すことが出発点になります。
記録するときは、次の3点をセットで書き留めておくと、主治医や訪問看護師に伝えやすくなります。
- きっかけとなったできごと(トラブルの前の様子・直接の原因)
- 実際にあった困った行動(どんなトラブルが起きたか)
- そのあとどうなったか(誰がどう対応して、どう収まったか)
「怒りっぽくなった」とだけ伝えるより、「夕方に来客が続いた日の後に起きやすい」という形で伝わると、避けられるきっかけが見えてきます。
「わがまま」「性格が変わった」に見えるとき
感情や欲求が抑えられない、すぐ怒る、何もやる気が出ない——こうした変化は、脳の損傷による社会的行動障害という症状です。対人技能の拙劣、依存性・退行、意欲や発動性の低下、固執性、感情コントロールの低下は、それぞれが高次脳機能障害と診断された方の50%前後にみられ、どれかひとつでも当てはまる方は81%にのぼります(出典:同マニュアル)。決して珍しいことではありません。
そして見過ごされやすい理由があります。この障害は求められることの水準が上がるほど表に出やすいため、介助のある入院生活では目立たず、退院後の家庭生活、さらに社会復帰後になって初めて目立つという経過をたどります。そのために早期の支援を逃してしまう例が、これまで一定数ありました。
「退院したら人が変わってしまった」と感じるのは、ご家族の受け止め方の問題ではありません。家庭という場面で初めて症状が見えるようになった、というのが実際に起きていることです。
環境を整える(きっかけを避け、分かりやすくする)
対応の柱は「構造化」=わかりやすくすることです。予定を一定にする、ルールをはっきりさせる、といった工夫が土台になります。症状ごとの具体例は次のとおりです(出典:国立障害者リハビリテーションセンター「生活支援について知りたい」)。
- 忘れてしまう:やることのチェックリストや電化製品の手順を、目立つ場所に貼る。薬は薬箱にセットするか服薬カレンダーを使う
- 段取りが立たない:1日のやるべきことをスケジュール表に書き、終わったらチェックする
- お金の管理が難しい:本人が管理できる範囲(1日500円、1週間5,000円など)を決めて渡す
- 外出が不安:あらかじめ経路・乗る電車・時間を書いたメモを用意しておく
- こだわりが強い・食べ過ぎる:きっかけになる言葉や物を特定して減らす。菓子類は見えない場所に置き、一人分だけ小分けにして出す
怒りっぽさ・感情のコントロールが難しいとき
社会的行動障害が目立つ86名を調べた調査では、最も多い症状が「感情コントロールの障害、易怒性」で、85%にみられました(出典:同マニュアル)。次に多いのが金銭管理の困難、対人技能の拙劣、意欲・発動性の低下、固執性、暴言・大声で、いずれも約70%です。
対応の考え方として知られているのがアンガーマネジメントです。これは「怒りの感情を取り除くこと」ではなく、「怒りの結果として現れる攻撃的な行動を未然に防ぐこと」を目的としています(出典:国立障害者リハビリテーションセンター 支援コーディネーター全国会議 資料)。怒らせないようにするのではなく、爆発に至る手前で流れを変える、という発想です。
ただし高次脳機能障害がある場合、本人が自分で対処法を身につけるには工夫が要ります。記憶障害があると「前もこうだった」という経験が積み重なりにくいため短い間隔で繰り返し思い出せる形にする、注意障害があるなら集中しやすい環境を先に整える、といった調整が必要になります。
薬で抑えることはできますか
検索でよくいただくご質問です。マニュアルには、幻覚や妄想などの精神症状、うつ状態、気分障害については薬物療法が有効な場合があると記されています。その際は少量から始めて、ゆっくり増やしていく点に注意が必要とされています(出典:同マニュアル)。
使うかどうか、何を使うかは主治医が診察のうえで判断することで、ご家族の判断で市販薬などを足すものではありません。また薬は、環境の調整や関わり方の工夫と置き換わるものではなく、それらを進めやすくするための後押しという位置づけです。
訪問看護師は、「先週より怒りっぽい」「薬を飲み忘れる日が増えた」といった日々の小さな変化を主治医やケアマネジャーに伝える役割を担います。診察室の短い時間では見えない在宅での様子が、薬の調整の判断材料になります。
ご家族が疲れてしまったときの相談先
社会的行動障害には、ご本人の行動そのものだけでなく、ご家族を含む周りの人との関係に長く影響が及ぶという特徴があります。支援の中にはご家族の悩みや苦しみを受けとめて聞き、精神的な負担を軽くすることが含まれています。ご家族が抱え込む必要はありません。
高次脳機能障害の支援拠点機関は、全都道府県に設置されています。東京都の拠点は東京都心身障害者福祉センターで、高次脳機能障害の専用電話相談を受け付けています(03-3235-2955/月〜金曜の9時〜12時・13時〜16時、祝日と年末年始を除く)。ご本人・ご家族のどちらからでも相談できます。
研究班のマニュアルも、一か所に頼りきりにならず、長く生活を維持できる体制をつくることを勧めています。訪問看護・かかりつけ医・ケアマネジャー・拠点機関を、それぞれ別の窓口として持っておくことが、結果的にご家族の負担を軽くします。
訪問看護師が自宅でできること
訪問看護師は、医療的なケアを行うだけでなく、生活の中で症状がどのように現れているかを継続的に観察します。「先週より少し怒りっぽい」「最近薬を飲み忘れることが増えた」という変化を主治医や担当ケアマネージャーに報告し、対応策を一緒に考えます。
具体的な支援としては、服薬管理のサポート(薬カレンダーの活用・飲み忘れ確認)、日常生活のルーティン化を助ける声かけ、注意障害への環境調整の提案(物の定位置を決める・視覚的な手がかりを使うなど)があります。また、ご家族に対して「怒りやすさは障害の症状であること」「どう接すると落ち着くか」を伝え、介護の負担を和らげる働きかけも行います。
制度・手帳・サービスについて
高次脳機能障害のある方は、「器質性精神障害」として精神障害者保健福祉手帳を取得できます。取得要件は、初診日から6か月以上症状が継続していること、および精神障害等級(1〜3級)の基準を満たすことです。診断書は精神科医以外(リハビリテーション医・神経内科医・脳神経外科医など)でも作成可能です(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)。手帳を取得すると、障害者総合支援法に基づく自立訓練(生活訓練)や就労支援サービスを利用できるほか、各種公共料金の割引なども受けられます。65歳未満の方は障害福祉サービスが、65歳以上の方は介護保険サービスが優先されます。申請窓口は足立区の障がい援護課各援護係です。
なお、高次脳機能障害者支援法が2025年12月に成立し、2026年4月1日から施行されています。国と自治体の責務、相談体制の整備、支援センターの指定などが法律に位置づけられました。
まとめ
高次脳機能障害は、脳卒中後の「見えにくい後遺症」として、ご本人とご家族の両方を長期にわたって苦しめることがあります。「変わってしまった」と感じたときが、専門職に相談するタイミングです。訪問看護師は、医療・生活・ご家族支援の橋渡し役として、継続的な関わりを通じてその変化に寄り添うことができます。すえひろ訪問看護ステーションに、まずはご相談ください。専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 高次脳機能障害は回復しますか?
A. 脳の可塑性(かそせい)により、適切なリハビリと環境調整によって症状が改善する可能性があります。ただし完全回復が難しい場合もあり、「症状と上手に付き合う方法を見つけること」が支援の目標になることも多いです。
Q. 怒りっぽさや無気力は「わがまま」ではないですか?
A. 脳の損傷による症状であり、本人の意志や性格の問題ではありません。感情コントロールの障害は社会的行動障害の一つです。
Q. 訪問看護を利用するには何が必要ですか?
A. 主治医の「訪問看護指示書」が必要です。介護認定を受けている方は担当ケアマネージャーにご相談ください。
Q. 家族が限界に近いと感じています。どうすればいいですか?
A. 訪問看護師やケアマネージャーに率直に話してください。レスパイトケア(ショートステイなど)や家族支援の活用を一緒に考えることができます。
Q. 高次脳機能障害の診断はどこで受けられますか?
A. 脳神経内科・神経心理士がいるリハビリテーション科での評価が一般的です。かかりつけ医や地域包括支援センターにご相談ください。
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