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「夏の食中毒」在宅療養中の方はなぜ危険?訪問看護師が教える食事・薬・衛生管理の夏の注意点

「冷蔵庫に入れているから大丈夫」「少し残ったご飯、もったいないから明日食べよう」——そんな日常の何気ない判断が、在宅療養中の方にとっては命取りになることがあります。気温と湿度が一気に上がる夏は、食中毒菌が急速に増殖する季節です。ご自宅で療養中の方は、病院や施設と違い、衛生管理のすべてをご家族が担わなければなりません。

在宅療養中の方は免疫力が低下しているケースが多く、健康な方が軽い胃腸炎で済む食中毒でも、重篤な状態に陥るリスクがあります。すえひろ訪問看護ステーションでは、夏になると「食欲がなくて」「なんか元気がない気がして」というご連絡が増えます。その背景に食中毒が潜んでいることも少なくありません。

この記事では、訪問看護師が実際の訪問先で見聞きしたリアルな視点から、在宅療養中ならではの食中毒リスクと、今日からできる予防策をお伝えします。薬の保管という見落とされがちな盲点にも触れながら、この夏を安全に乗り越えるためのヒントをまとめました。

在宅療養中の方が夏の食中毒に特に注意すべき理由

在宅療養中の方が食中毒にかかりやすい最大の理由は、免疫力の低下です。がん・糖尿病・慢性腎臓病・神経難病など基礎疾患がある方、ステロイドや免疫抑制剤を服用している方は、食中毒菌に対する抵抗力が健康な方より弱くなっています。健康な成人なら軽症で回復できる菌量でも、重篤な症状を引き起こす可能性があります。

令和6年(2024年)の食中毒発生件数は全国で1,037件、患者数は14,229人にのぼります(出典:厚生労働省 令和6年食中毒発生状況の概要)。夏季(7〜8月)に発生件数が集中する傾向があるとされており、気温・湿度の上昇が食中毒菌の増殖を大きく加速させます(出典:厚生労働省 食中毒統計調査)。

食中毒の発生件数は夏に集中します
月別食中毒発生件数の傾向(厚生労働省統計より)
1月
2月
3月
4月
やや多
5月
やや多
6月
多い
7月
⚠ 多い
8月
⚠ 最多
9月
⚠ 多い
10月
やや多
11月
12月
※傾向を示すイメージ図。実数値は厚生労働省食中毒統計調査を参照

在宅療養中の方に特有のリスクとして、「食事をあまり食べられない」という点も見逃せません。食欲不振から作り置きを少しずつ食べる食習慣になりがちで、食品が室温に長時間置かれる機会が増えます。冷蔵保存していても、冷蔵庫の開け閉めが多い夏は庫内温度が上昇しやすく、細菌の増殖を招きます。

サルモネラ属菌の至適増殖温度は40℃、カンピロバクターは42℃、黄色ブドウ球菌は37℃です(出典:食品安全委員会)。夏の室温はこれらの細菌が最も活発に増殖する温度帯に重なります。在宅療養中の方が夏の食中毒で重症化しやすいのは、免疫力の低下+食品管理の難しさ+細菌の急速増殖が重なるためです。

高齢者は急性脱水症や菌血症(細菌が血液に入り込む状態)を起こすなど、食中毒が重症化しやすい傾向があります(出典:厚生労働省 高齢者を対象とした食事の提供による食中毒の防止について)。脱水は熱中症とも重なるため、夏の在宅療養では食中毒と熱中症のダブルリスクを意識した管理が求められます。

見落としがちな「薬の保管」:夏の高温で変質するケースとは

「薬は引き出しにしまっています」というご家庭は多いのですが、夏の室温では一部の医薬品が変質するリスクがあります。日本薬局方では「室温」を1〜30℃、「冷所」を1〜15℃以下と定義しています(出典:PMDA 日本薬局方 通則)。ところが真夏の室内温度は30℃を超えることがあり、「室温保存」と指定された薬でも適切な保管条件を逸脱してしまいます。

薬の保管場所チェックフロー
薬の保管方法を確認してください
薬の袋・箱・添付文書を見る
「貯法」欄を確認
「冷所保存」
冷蔵庫(1〜15℃)へドアポケットより野菜室・チルド室が安定
「室温保存」
30℃以下・冷暗所へ夏は30℃超えに注意!車内・窓際・コンロ周辺はNG
⚠️ 直射日光・高温多湿の場所に置いていたら
薬剤師や訪問看護師にご相談ください

特に注意が必要な薬の種類をお伝えします。

インスリン製剤は未開封であれば冷蔵庫(2〜8℃)での保管が基本ですが、開封後は室温保管が可能とされています。ただし、高温環境(夏の車内・直射日光の当たる窓際など)に長時間置かれると効力が低下します。点眼薬や坐薬も同様に、夏の高温で変質するものがあります。薬の変質は見た目だけでは判断できないことも多く、「効き目が弱くなった気がする」と感じた際は早めに薬剤師や訪問看護師にご相談ください。

訪問看護師が訪問時によく見かける「危険な保管場所」は、窓際のテーブル・テレビの横・台所の引き出し(コンロ周辺)です。これらはいずれも夏に高温になりやすい場所です。薬の保管場所は「涼しく・暗く・乾燥した場所」が基本で、夏は特に意識して見直していただきたいと思います。

なお、薬の種類によって適切な保管方法が異なります。服用している薬の保管条件は、添付文書や調剤薬局での確認をおすすめします。

経管栄養・とろみ食・手作りおかずの衛生管理ポイント

在宅療養中の方の食事形態は、一般家庭の食事とは異なる場合が多くあります。経管栄養(胃瘻・経鼻チューブによる栄養注入)・とろみ食・ミキサー食など、それぞれに夏ならではの衛生上の注意点があります。

経管栄養の場合は、栄養剤の開封後の管理が重要です。開缶・開封した栄養剤は細菌が増殖しやすく、気温が高い夏は特に注意が必要です。注入ボトルや接続チューブの洗浄は毎回丁寧に行い、使用前後は清潔な状態を保ちます。注入速度が遅く注入時間が長くなる場合は、ボトル内に室温が当たらないよう工夫することも大切です。経管栄養の衛生管理の手順については、訪問看護師から定期的に確認・指導をさせていただいています。

とろみ食・ミキサー食・介護食(手作りおかず)の場合は、作り置きを室温に放置しないことが最重要ポイントです。調理後は速やかに冷蔵保存し、食べる直前に再加熱(中心温度75℃以上)することを習慣にしてください。

在宅療養の夏の食事衛生チェックリスト
1
作り置きは2時間以内に冷蔵庫へ 調理後は室温に置かず、速やかに冷蔵保存(10℃以下)。当日中を目安に使い切る
2
再加熱は中心部75℃・1分以上 食べる直前に必ず加熱。カンピロバクター・サルモネラはこの温度で死滅する
3
まな板・包丁は食材ごとに使い分け 生肉・魚用と野菜・食べる物用を分け、使用後は洗浄・消毒する
4
ふきんは毎日洗浄・乾燥 夏は使い捨てキッチンペーパーへの切り替えも有効。スポンジも定期的に交換
5
冷蔵庫は10℃以下に設定維持 夏は設定を「強」または「中」以上に。詰め込みすぎで冷気が回らないことに注意
6
調理前の手洗い・手指の傷の管理 黄色ブドウ球菌は手の傷口から移行する。傷がある時は使い捨て手袋を使用

とろみ調整食品は、液体に溶かした後に時間が経つほどとろみが変化する性質があります。まとめて作り置くよりも、1食ずつ作ることが理想です。どうしても作り置きが必要な場合は、密閉容器に入れて冷蔵保存し、当日中に使い切るようにしてください(※要確認:とろみ剤混合後の安全な保存時間は製品ごとに異なるため、使用製品の取扱説明書をご確認ください)。

なお、黄色ブドウ球菌は調理する人の手の傷口から食品に移ることがあります。この細菌が産生する毒素は加熱しても無毒化されないため(出典:食品安全委員会)、調理前の手洗いと手指の傷の管理が非常に重要です。

訪問看護師が訪問時にチェックしている「夏の台所・冷蔵庫」

訪問看護師は医療ケアだけでなく、療養環境全体を観察しています。夏の訪問では、台所と冷蔵庫の状態を必ずと言っていいほど確認しています。実際に訪問先でよく見かける「気になるポイント」をお伝えします。

冷蔵庫のチェックポイントとして最も多いのは、食品の詰め込みすぎです。冷蔵庫を食品でぎゅうぎゅうに詰めると冷気が循環せず、庫内温度が上がりやすくなります。冷蔵庫は容量の7割程度を目安に、冷気の通り道を確保してください。また、冷蔵庫の設定温度が「弱」のままになっているご家庭もあります。夏は「中」以上に設定し直すことをおすすめします。

のイメージ

台所のチェックポイントでよく見かけるのは、使ったまま台所に放置されているふきん・スポンジです。これらは細菌の温床になりやすく、夏は特にこまめな洗浄・乾燥が重要です。ふきんは使い終わったら水分を絞り、使い捨てタイプへの切り替えも有効な方法です。

また、「食べ残しをラップをかけずにテーブルに置いておく」「作ったおかずを鍋ごとコンロの上に放置する」という習慣も見かけます。夏の室温では、調理後2時間以内に冷蔵庫へ入れることが原則です。訪問看護師から生活環境の改善提案をすることも、在宅療養支援の大切な役割の一つだと考えています。

ご家族が介護の疲れで「少しくらい大丈夫」と思ってしまうことも無理はありません。そういった場合は、一緒に無理なく続けられる衛生管理の方法を考えさせてください。制度上難しいと思われることでも、まずはご相談ください。

食中毒かな?と思ったときの家族の動き方と受診の目安

在宅療養中の方に下痢・嘔吐・腹痛・発熱の症状が現れたとき、家族はどう判断すればよいのでしょうか。症状の経過と重症度を見極めることが重要です。

まず、食べたものと症状が出るまでの時間(潜伏期間)を確認します。黄色ブドウ球菌は食後30分〜6時間(平均3時間)、サルモネラは食後8〜48時間で症状が出るのが一般的です(出典:国立感染症研究所・食品安全委員会)。同じ食事をした家族に同様の症状が出ていれば、食中毒の可能性が高まります。

すぐに受診・連絡が必要なサインは以下の通りです。在宅療養中の方は特に重症化しやすいため、このサインが一つでも当てはまれば早急な対応が必要です。

口や皮膚が乾燥し、尿量が著しく減少した脱水症状が見られる場合は速やかに医療機関に連絡します。38.5℃以上の高熱が続く、または意識がぼんやりする・普段より反応が悪いといった状態も、救急受診の目安になります。血便や激しい腹痛が続く場合も、すぐに医療機関に相談してください。

高齢者や免疫力が低下した方は、一般的な食中毒よりもはるかに早く脱水が進みます(出典:厚生労働省 食中毒を疑ったときには)。「様子を見てから」と時間を置いてしまうと重症化するリスクがあるため、「おかしいな」と感じたらまずは訪問看護師またはかかりつけ医にご連絡ください。

食中毒を疑った際は、原因として疑われる食品を捨てずに保管しておくことも大切です。保健所への届け出や原因特定の際に必要になる場合があります。

まとめ:夏の在宅療養は「予防」が最大の守り

在宅療養中の方にとって夏の食中毒が危険な理由は、免疫力の低下・作り置き食品の管理リスク・薬の変質という複数のリスクが重なるためです。令和6年の食中毒発生件数は1,037件・14,229人に達しており、夏季に集中する傾向があります(出典:厚生労働省)。一般家庭以上に丁寧な衛生管理が求められます。

すえひろ訪問看護ステーションでは、医療ケアと並行して療養環境の安全確認も行っています。「薬の保管場所が心配」「冷蔵庫の整理の仕方がわからない」「食欲がなくて何を食べさせればいい?」——そんな日常の小さな不安も、専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。

夏を乗り越えるために、一人で抱え込まないでください。在宅療養中の方が安心して夏を過ごせるよう、一緒に考えさせてください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 冷蔵庫に入れていれば、作り置きは何日でも大丈夫ですか?

冷蔵保存でも細菌の増殖を完全には止められません。冷蔵庫の目安温度(10℃以下)でも増殖するリステリア菌のような細菌もいます。作り置きは夏場は2〜3日を目安に使い切り、再加熱は中心温度75℃以上・1分以上を守ることが大切です。

Q2. 薬を車の中に置き忘れてしまいました。そのまま飲んでも大丈夫ですか?

夏の車内は60〜70℃以上になることがあります。インスリン・坐薬・点眼薬など温度変化に敏感な薬は、変質している可能性があります。見た目や匂いに変化がなくても、薬剤師やかかりつけ医にご相談の上、必要であれば新しい薬に交換することをおすすめします。

Q3. 経管栄養を使っていますが、夏の衛生管理で特に気をつけることは何ですか?

開封後の栄養剤は速やかに使い切るか、冷蔵保存してください。注入時は手洗いを徹底し、接続チューブや注入ボトルは使用後に丁寧に洗浄します。夏は室温が高くなるため、注入中もボトルが高温環境にならないよう注意が必要です。ケアの手順に不安があれば、訪問看護師にご相談ください。

Q4. 食中毒と熱中症の症状が似ていて、どちらか判断できません。

どちらも夏に多く、吐き気・だるさ・発熱が共通の症状として現れます。熱中症は涼しい場所に移動・水分補給で改善に向かうことが多いですが、食中毒は腹痛・下痢が伴うことが特徴です。いずれにせよ在宅療養中の方の場合は重症化リスクがあるため、症状が気になる場合はまず訪問看護師やかかりつけ医にご連絡ください。

Q5. ご家族が感染した場合、在宅療養中の方への感染が心配です。

ノロウイルスやカンピロバクターなど、感染力のある食中毒もあります。介護をするご家族が感染した場合は、手洗い・手指消毒を徹底し、可能な限りケアの担当者を変えることをご検討ください。心配な場合は訪問看護師にご相談いただけます。

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