「雨が続くと、玄関で足を滑らせないか心配で」「夏は暑くてだるそうで、ふらつきが気になる」——在宅療養中の高齢のご家族を支えている方から、こうした声をよく伺います。梅雨から夏にかけての時期は、室内環境の変化と体調の変化が重なり、転倒リスクが高まる季節です。転倒は骨折や入院につながりやすく、その後の生活に大きな影響を与えることがあります。
訪問看護師は、ご自宅に伺うたびに転倒リスクを確認し、住環境の見直しや身体機能の評価、ご家族へのアドバイスを行います。「ちょっとした工夫で防げること」がたくさんあります。この記事では、梅雨・夏特有の転倒リスクと、家族ができる予防策、そして訪問看護師にできることをわかりやすくお伝えします。
目次
梅雨から夏にかけて転倒リスクが高まる理由
梅雨から夏にかけての時期は、床の濡れ・湿度上昇・体調変化という3つの要因が重なり、高齢者の転倒リスクが特に高まります。雨に濡れた靴のまま玄関に入ると床が滑りやすくなり、湿度が高い日は汗で素足やスリッパが滑ることがあります。さらに、暑さと発汗による脱水が進むと、ふらつきや立ちくらみが起きやすくなります。
高齢者は自律神経のコントロール機能が低下しているため、急な体位変換(寝た姿勢から立ち上がるなど)で血圧が下がりやすく(起立性低血圧)、めまいを起こしやすい状態になります。高温多湿の環境では気化熱による体温調節がうまく働かず、体内の電解質バランスが崩れることもあります。こうした身体の変化が、「ちょっとした段差」でも転倒を招く原因となります。
厚生労働省の令和3年人口動態調査によると、65歳以上の転倒・転落による死亡者数は年間9,509人にのぼり、交通事故死亡者数(2,150人)の4倍以上です。また、「骨折・転倒」は要介護になる原因の第3位、要支援になる原因の第3位(16.1%)に位置しています(出典:厚生労働省 令和4年国民生活基礎調査)。転倒は決して「よくある出来事」ではなく、その後の生活を大きく変える出来事です。
転倒しやすい場所と危険ポイントチェック
自宅内で転倒が起きやすい場所は、居室・寝室が約45%で最多とされており、次いで階段・台所・玄関と続きます(健康長寿ネット)。「ベッドから立ち上がった瞬間」「トイレへ向かう夜中の廊下」「入浴前後の脱衣所」など、毎日の動作の中に転倒の危険が潜んでいます。
高齢者が転倒しやすい室内の場所ランキング
居室・寝室(約45%)
ベッドからの立ち上がり・つまずき、夜間のふらつき。梅雨の湿気でラグがめくれやすい。
階段
踏み外し・踏み込み不足。手すりなし・照明不足の場合は特に危険。
台所・食堂
水や油で床が滑りやすい。立ち仕事で疲労が蓄積しやすい場所。
玄関
上がり框の段差・雨で濡れた靴による滑り。梅雨時は特に床が濡れやすい。
廊下・脱衣所・浴室
石けんや水で床が滑りやすい。入浴前後の急な血圧変動もリスク要因。
出典:健康長寿ネット「高齢者の住宅内の事故」をもとに作成
梅雨・夏の時期に特に注意したい危険ポイントを場所別に確認しましょう。玄関では、雨で濡れた靴のまま入るとたたきや廊下が滑りやすくなります。吸水性の低いマットは逆に滑る原因になるため注意が必要です。脱衣所・浴室では、石けんや水で床が滑りやすくなるうえ、入浴後の急な温度変化で血圧が変動することがあります。
廊下・居室では、梅雨の湿気でカーペットやラグマットがめくれ上がったり、床が結露で湿ることがあります。夜間のトイレへの導線は特に注意が必要で、暗い中でのふらつきが転倒につながりやすいです。寝室では、ベッドの高さが合っていないと立ち上がりの際に転倒しやすく、低すぎても高すぎても危険です。
すぐできる!室内の転倒予防対策
転倒予防でまず取り組むべきは、「滑りにくい環境づくり」と「つかまれる場所の確保」です。玄関には吸水・滑り止め効果のある玄関マットを置き、雨具はすぐに片付けられる場所を決めておきましょう。廊下や脱衣所など滑りやすい場所には、薄くて端がめくれにくい滑り止めマットが有効です。
梅雨・夏の室内転倒予防チェックリスト
玄関吸水・滑り止め効果のある玄関マットを設置している
上がり框(段差)に手すりまたはつかまれるものがある
雨の日に濡れた傘・靴はすぐ片付けられる
玄関から廊下の照明が十分明るい
廊下に電源コードや段差がない
ラグ・マットの端がめくれ上がっていない
夜間トイレ動線に足元灯(センサーライト)がある
ベッドの高さが低すぎず、立ち上がりやすい
浴室内・脱衣所の床に滑り止めマットがある
浴槽の出入りに手すりがある
入浴前後にゆっくり立ち上がる習慣がある
シャワーチェアなど座って使える器具がある
トイレの立ち座りに手すりがある
スリッパは踵が固定されるタイプを使用している
こまめな水分補給ができている(のどが渇く前に)
室温・湿度管理(エアコン・扇風機)ができている
手すりは転倒予防の基本装備です。玄関の上がり框(かまち)、廊下、トイレ、浴室への導線に設置することで、体重を支えながら安全に動けます。介護保険の「住宅改修費」制度を利用すれば、要支援・要介護認定を受けた方は限度額20万円の工事費のうち、自己負担1〜3割で手すりを設置できます(厚生労働省)。申請は工事前に行う必要があるため、ケアマネジャーや訪問看護師にご相談ください。
夏の熱中症対策と転倒予防は切り離せません。脱水が進むとふらつきが起きやすくなるため、こまめな水分補給が大切です。のどが渇く前に1日1.5〜2リットルを目安に、少量ずつ補給するよう心がけましょう。また、夜間のトイレ動線には足元灯(センサーライト)を設置すると、暗い中でのふらつきを防げます。スリッパは踵(かかと)が固定されるタイプを選び、素足での歩行は避けましょう。
訪問看護師が行う転倒予防の指導・評価
訪問看護師は、ご自宅に伺う立場から「実際の生活環境の危険」を直接確認できます。病院や外来では気づきにくい、「この角に電源コードが這っている」「夜間の照明がここだけ暗い」といった具体的なリスクを、生活の場で発見・提案できることが強みです。
身体機能の面では、TUGテスト(Timed Up and Go Test:椅子から立ち上がり3m先まで歩いて戻るまでの時間を測定)など標準化された評価ツールを用いて、バランス能力や歩行の安定性を定期的に確認します。薬の副作用(降圧薬・睡眠薬・利尿薬など)によるふらつきが転倒の一因になっていないかも確認し、必要に応じて主治医へ情報共有します。
ご家族へは、転倒を防ぐための声かけの仕方(「急に立たずに、一度端に腰掛けてから」など)や、見守りのポイントをお伝えします。また、福祉用具の選び方(歩行器・シルバーカー・杖の種類)についてもアドバイスします。「専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます」という気持ちで、ご利用者様とご家族に寄り添いながら転倒予防を支えます。
転倒してしまったとき家族はどう対応するか
もし転倒が起きてしまったとき、まず大切なのは「すぐに起こさない」ことです。転倒直後は痛みを感じにくい場合もあり、無理に立たせようとすると骨折部位がずれたり、より重いケガにつながることがあります。そのままの姿勢で声をかけ、「どこが痛い?」「頭を打った?」と確認しながら、意識・呼吸・出血の有無を落ち着いて確認しましょう。
強い痛みがある・足が変形している・頭を強く打った場合は、ためらわず救急車を呼んでください。大腿骨(太ももの骨)の骨折は、骨折部から500〜1,000mlの内出血が起きることがあり、放置すると命に関わることがあります。救急隊員には、お薬手帳・既往歴・かかりつけ医の連絡先を伝えられるよう、普段から手元に置いておくと安心です。
軽度の転倒で外傷がなく、しばらくして問題なく動けるようであっても、訪問看護師や主治医に連絡してください。高齢者の転倒は、数日後に「頭部への遅発性の出血(慢性硬膜下血腫)」が現れることがあるからです。「大丈夫そうだから」と見過ごさず、必ず専門職に報告することが重要です。
ご家族が転倒後に感じる「また倒れるのでは」という不安は、非常に自然な気持ちです。その不安を抱えたまま一人で対応しようとしなくても大丈夫です。「転倒が怖くて外出させられなくなった」と感じたときも、訪問看護師に相談していただければ、環境整備や本人の身体機能の評価を一緒に行い、現実的な対応策を考えます。
まとめ
梅雨から夏にかけての時期は、濡れた床・高湿度・脱水・ふらつきが重なり、高齢の方の転倒リスクが高まります。転倒は「骨折→入院→体力低下」という連鎖につながりやすく、在宅生活を続けるうえで予防が不可欠です。しかし、住環境の見直し・手すりの設置・水分補給・足元の整備など、今日からできることも多くあります。
すえひろ訪問看護ステーションでは、ご自宅を訪問するたびに転倒リスクを確認し、ご利用者様の身体状態とご自宅の環境の両面から転倒予防を支えています。「うちは大丈夫だろうか」と思ったとき、制度上のことも含めて、まずはお気軽にご相談ください。不安を抱えているのはご家族だけではありません。一緒に考えさせてください。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 梅雨の時期だけ特別に注意することはありますか?
A. 梅雨の時期は、濡れた靴による玄関の滑りと、高湿度による汗でのスリッパの滑りに特に注意が必要です。玄関マットの吸水性と滑り止め効果を確認し、こまめに乾かすと安心です。室内の換気を心がけ、床が結露で湿っていないかも朝に確認しましょう。
Q. 手すりをつけたいが費用が心配です。介護保険は使えますか?
A. 要支援・要介護認定を受けた方は、介護保険の「住宅改修費」として上限20万円の工事費のうち、自己負担1〜3割で手すりを設置できます(厚生労働省)。ただし、工事前の事前申請が必要です。まずはケアマネジャーまたは訪問看護師にご相談ください。
Q. 転倒後、動けているようなら病院は不要でしょうか?
A. 動けていても、念のため主治医や訪問看護師への報告をお勧めします。高齢者は転倒後に「慢性硬膜下血腫」という頭部の出血が数日〜数週間後に現れることがあります。痛みが続く・頭がおかしい感じがする・ぼんやりしているなどの変化があればすぐ受診してください。
Q. 転倒を恐れて動かなくなってしまっています。どうすればよいでしょう?
A. 転倒への恐怖から活動を控えすぎると、筋力が低下してかえって転倒しやすくなる「廃用症候群」につながることがあります。訪問看護師は、安全な動き方の練習や身体機能の評価を通じて、「恐怖を感じずに動ける範囲」を一緒に探します。諦めずに、少しずつ取り組みましょう。
Q. 訪問看護師は転倒予防のためにどんなことをしてくれますか?
A. 訪問看護師は、TUGテストなどのバランス評価、薬の副作用の確認、住環境の危険ポイントのチェック、手すりや福祉用具の提案、ご家族への見守り指導などを行います。訪問のたびに状態の変化を確認し、リスクが高まる前に対策を講じることができます。
「転倒しないか心配」というご家族のご不安も、訪問看護師にご相談いただけます。住環境のアドバイスから、体の状態の評価まで、一緒に考えさせてください。無料相談はこちら

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