腹膜透析(PD)を続けるうえで、最も注意すべき合併症のひとつが「腹膜炎」です。「排液が少し濁っている気がするけど、食事のせいかな」「お腹は痛くないから大丈夫かも」——こうした判断で受診を遅らせてしまうことが、症状の重篤化につながる場合があります。
腹膜炎は、早期に気づいて適切に対処すれば、腹膜透析を続けることへの影響はほとんどないとされています。逆に、発見が遅れると腹膜の機能が低下し、透析を継続できなくなるリスクもあります。この記事では、腹膜炎の初期サインの見分け方と、気づいたときの具体的な対応手順をお伝えします。
【画像挿入 種類: 写真 内容: 排液バッグを光にかざして濁りを確認している手元のイメージ 目的: 排液の色確認が日常的なチェックとして重要であることを伝える alt属性テキスト案: 腹膜透析の排液バッグを確認している様子。透明な排液と混濁した排液の違いを確認するイメージ 】
腹膜炎とは何か、なぜ起こるのか
腹膜炎とは、お腹の中(腹腔内)に細菌が入り込み、腹膜に炎症が起こった状態です。通常、腹腔内は無菌の空間ですが、バッグ交換の際の操作ミスや出口部のケア不足などによって細菌が侵入することがあります。
主な原因は大きく2つに分けられます(出典:Vantive腹膜透析情報サイト)。ひとつは「外因性」で、バッグ交換時の清潔操作の不徹底(接続チューブ先端への接触など)や、カテーテル出口部・トンネル感染からの波及が該当します。もうひとつは「内因性」で、腸管内の細菌が腸管の憩室や炎症を通じて腹腔内に移行するケースです。このほか、カテーテルの破損や接続部の緩みも細菌侵入の入り口となります。
※ 腹膜炎の原因分類の詳細については、全国腎臓病協議会「腹膜透析の合併症」ページ(https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/cure/peritoneal-dialysis/complication/)も参照しています。記載内容に誤りがないよう努めていますが、最新情報は原典サイトでご確認ください。
腹膜炎を繰り返すと腹膜が徐々に傷つき、透析の効率が落ちたり、腹膜透析そのものを継続できなくなることもあります。日常的な予防と、異変に気づいた際の素早い対応が、腹膜透析を長く続けるために欠かせません。
腹膜炎の初期サイン──見逃してはいけない3つのポイント
ポイント1:排液の濁りが最初のサイン
腹膜透析の利用者様にとって、腹膜炎を疑う最も重要なサインは「排液の混濁(にごり)」です。
腹膜炎の主要な症状は腹痛と排液混濁ですが、腹痛を伴わずに排液混濁のみで発見されるケースも少なくありません(出典:日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第六章)。透析液でお腹の中が常に洗い流されているため、腹痛や腹膜刺激症状が出ない方もいます。そのため、排液の色の確認を毎回欠かさないことが早期発見の鍵です。
正常な排液は、ほぼ透明〜淡いピンク色(術直後や月経中)です。白く濁っている、または薄い牛乳のように見える場合は腹膜炎が強く疑われます(出典:大阪大学腎臓内科「PD排液混濁時の対応・指導」)。「食事のせいかも」と自己判断せず、濁りを確認したらすぐに病院へ連絡することが基本です。
なお、APD(自動腹膜透析)を使用中の方は排液タンクが汚れていると濁りに気づきにくいため、特に意識して確認するようにしましょう(出典:日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第六章)。
【画像挿入 種類: 図表 内容: 排液の色の見分け方チャート(正常・要注意・要受診の3段階で色と状態を図解) 目的: 排液の正常・異常の判断基準を視覚的にわかりやすく示す alt属性テキスト案: 腹膜透析の排液色確認チャート。透明(正常)・やや濁り(要観察)・白濁(要受診)の3段階で色と判断基準を示した図 】
ポイント2:腹痛・発熱・吐き気にも注意
腹膜炎のその他の症状として、腹痛、発熱(37.5℃以上が目安)、吐き気・嘔吐、下痢、倦怠感などがあります。ただし、これらの症状がなくても排液が濁っていれば腹膜炎の可能性があります。
逆に、「お腹は少し痛いけど排液は透明」という場合でも、腸の動きに関連した問題が起きている可能性があります。いずれにせよ、通常と違う感覚があれば、まず病院や担当訪問看護師に連絡することを迷わないでください。
ポイント3:出口部の変化も見落とさない
腹膜炎の入り口のひとつが「出口部感染」です。カテーテルの出口部に赤み・腫れ・痛み・膿・滲出液が見られる場合は、感染が皮下トンネルを通じて腹腔内へ進行するリスクがあります。
出口部感染を放置すると、皮下トンネル部の感染(トンネル感染)を経て腹膜炎に発展することがあります(出典:日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第六章)。出口部の異常は腹膜炎の前兆と捉え、早めに医療機関へ相談してください。
排液が濁ったとき──すべきこと・してはいけないこと
すべきこと
排液の濁りに気づいたら、時間を問わずすぐに担当医療機関へ電話で連絡します。夜中や休日であっても、連絡を翌朝まで待つ必要はありません。腹膜炎の疑いがある場合は、24時間いつでも受診の指示を仰ぐことができる体制を医療機関と事前に確認しておくと安心です。
受診の際は、混濁した排液を捨てずに持参することが非常に重要です。排液を検査することで原因菌を特定でき、その菌に合った抗菌薬を早期から使えるからです(出典:大阪大学腎臓内科「PD排液混濁時の対応・指導」)。
また、受診前に新しい透析液をお腹の中に入れた状態で来院するとよいとされています。腹膜炎の診断には最低でも2時間の注液が必要なため、受診前に透析液を注入しておくことで、追加の検体採取が速やかに行えます(出典:大阪大学腎臓内科「PD排液混濁時の対応・指導」)。
してはいけないこと
排液が濁っていても「症状が軽いから様子を見る」「写真を撮ったから排液は捨てた」といった対応は避けてください。排液の写真では原因菌の特定ができず、適切な治療の開始が遅れます。
受診が遅れると、細菌がバイオフィルム(菌の膜)を形成し、本来なら効くはずの抗菌薬が効きにくくなる場合があります(出典:Vantive腹膜透析情報サイト「腹膜炎の基礎知識」)。自己判断で様子を見た結果、注排液ができなくなったり、急激に症状が悪化して救急搬送になったケースも報告されています。「たぶん大丈夫」という判断が、腹膜透析の継続を難しくすることがあります。
【画像挿入 種類: 図表 内容: 腹膜炎が疑われたときの対応フロー図(排液混濁を確認→病院に電話→排液を持参して受診→抗菌薬治療) 目的: 緊急時の行動手順をひと目で理解できるようにする alt属性テキスト案: 腹膜透析の腹膜炎対応フロー図。排液混濁確認から受診・治療開始までの手順を示した図解 】
治療はどのように行われるか
腹膜炎と診断された場合、基本的には入院のうえ抗菌薬による治療が行われます。まずはお腹の中を透析液で2回洗浄し、続いて幅広い菌に対応できる抗菌薬を投与します。持参した排液の検査から原因菌が特定された後は、その菌に適した抗菌薬に切り替えて治療を続けます(出典:Vantive腹膜透析情報サイト「腹膜炎の基礎知識」)。
治療期間は原因菌の種類によって異なり、多くの場合は2〜3週間ですが、真菌や結核菌など難治性の菌が原因の場合は2か月程度に及ぶこともあります(出典:Vantive腹膜透析情報サイト「知って防ごう腹膜炎」)。治療開始が早いほど期間は短くなる傾向があります。
なお、離島・山間部にお住まいの方や施設入所中の方など入院が難しい場合には、在宅診療医や訪問看護師のサポートを活用した在宅での治療が選択されることもあります(出典:Vantive腹膜透析情報サイト「知って防ごう腹膜炎」)。
日常的な予防のポイント
腹膜炎を防ぐために、日々の生活で意識してほしいことがあります。
バッグ交換時の清潔操作は最も重要な予防策です。手洗い・マスク着用・接続部への不用意な接触を避けることが基本です。出口部のケアは毎日欠かさず行い、カテーテルをしっかり固定してひっぱらないようにします。
便秘にも注意が必要です。いきむことで腸内の圧が上がり、腸内の細菌が腹腔内に移動して腹膜炎を引き起こすことがあります。食物繊維を意識した食事・適度な運動・必要に応じた下剤の活用で、毎日排便がある状態を保ちましょう。
すえひろ訪問看護ステーションでは、訪問のたびに出口部の状態確認・バッグ交換手順の確認・体調のチェックを丁寧に行っています。「最近出口部が気になる」「バッグ交換で不安な操作をしてしまった」など、些細なことでも遠慮なくお伝えください。訪問のタイミングを待たず、気になることがあればいつでもご連絡いただいて構いません。
まとめ
腹膜炎の最初のサインは「排液の濁り」です。腹痛がなくても、排液が白く濁っていたら腹膜炎の可能性があります。時間帯を問わずすぐに医療機関へ連絡し、混濁した排液を捨てずに持参して受診することが、最も大切な行動です。
腹膜炎は早期発見・早期治療ができれば、腹膜透析の継続に大きな影響を与えないとされています。「もしかして」と思ったときに迷わず動くことが、これからも在宅での生活を守ることにつながります。
異変を感じたとき、まず相談できる場所として、すえひろ訪問看護ステーションもいつでもお声がけください。利用者様の不安に寄り添いながら、主治医との連携を含めて一緒に対応します。
まずは、かかりつけ医やケアマネジャーにご相談いただくか、当ステーションまで直接お問い合わせいただければと思います。
【お問い合わせ先】 すえひろ訪問看護ステーション
受付時間: 平日9:00-17:00
よくある質問
Q. 排液が濁っていましたが、お腹は痛くありません。受診が必要ですか? A. はい、受診が必要です。腹膜透析の利用者様は腹痛がなくても排液混濁だけで腹膜炎が見つかるケースがあります(日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」)。「痛くないから大丈夫」と自己判断せず、すぐに担当医療機関に連絡してください。
Q. 排液の濁りに気づいたのが夜中です。朝まで待ってもよいですか? A. 待たずにすぐに病院へ連絡してください。腹膜炎は発見が遅れるほど細菌がバイオフィルムを形成して治療が難しくなります。夜中や休日でも連絡してよい旨を、事前に担当医療機関に確認しておくと安心です。
Q. 腹膜炎になると腹膜透析を続けられなくなりますか? A. 早期に治療を開始できれば、透析の継続への影響はほとんどないとされています。ただし、腹膜炎を繰り返したり発見が遅れると腹膜の機能が低下し、血液透析への移行が必要になることがあります。だからこそ早期発見・早期受診が重要です。
Q. 混濁した排液は写真に撮ってから捨ててもよいですか? A. 捨てないでください。排液の写真では原因菌を特定できません。混濁した排液は袋のまま密封して持参することが、的確な治療の出発点になります(大阪大学腎臓内科「PD排液混濁時の対応・指導」)。
Q. 腹膜炎を予防するために一番大切なことは何ですか? A. バッグ交換時の清潔操作と、出口部ケアを毎日続けることが最も重要です。それに加えて、便秘を防ぐ食生活・適度な運動を心がけましょう。不安なことがあれば、その都度医療者に相談する習慣も大切な予防のひとつです。
参考資料
- 全国腎臓病協議会「腹膜透析の合併症」 https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/cure/peritoneal-dialysis/complication/
- 日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」 https://www.jsdt.or.jp/dialysis/3055.html
- 大阪大学腎臓内科「PD排液混濁時の対応・指導」 https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/pd/pd06.html
- Vantive(旧バクスター)腹膜透析情報サイト「知って防ごう腹膜炎」 https://jp.mykidneyjourney.com/ja/smile/kanto/2022_spring
- Vantive(旧バクスター)腹膜透析情報サイト「腹膜炎の基礎知識」 https://jp.mykidneyjourney.com/ja/smile/kanto/2017_summer

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