「機械の音が心配」「火事にならないか怖い」「外出はできるのだろうか」——在宅酸素療法(HOT)の導入が決まったとき、こうした不安を抱えるご家族はたくさんいます。大切な方を自宅で支えたいという気持ちと、慣れない医療機器への戸惑いが重なる時期です。この記事では、退院前後に何を準備すべきか、日常生活での具体的な注意点、そして緊急時の対応まで、訪問看護師の視点からわかりやすくお伝えします。「怖い」という感情に寄り添いながら、一緒に考えていきましょう。
目次
在宅酸素療法(HOT)とは:基本をわかりやすく
在宅酸素療法(HOT)は、肺の機能が低下した方が自宅で酸素を吸入しながら生活を続けるための医療です。機器を使いこなすコツを知れば、多くの方が安心して日常を送れます。
HOTが必要になる病気と理由
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎(こうしゅうせいはいえん)、肺がんなど、肺の機能が低下した状態が続くと、安静にしていても体に必要な酸素が十分取り込めなくなります。血液中の酸素が慢性的に不足すると、心臓に余計な負担がかかり、思考力が低下するなど、全身にさまざまな影響が出ます。
HOTは単に呼吸を楽にするだけでなく、生命予後の改善にもつながる治療として位置づけられています。医師の処方のもと、適切な流量・使用時間を守ることが大切です。(出典:日本呼吸器学会 在宅呼吸ケア関連資料)
使用する機器の種類と特徴
自宅で使う機器は主に2種類です。「酸素濃縮器(さんそのうしゅくき)」は自宅の空気から酸素を取り出す電動の機械で、コンセントにつなぐだけで使えます。ボンベのような補充が不要で、24時間安定して使い続けられます。稼働音は機種によって異なりますが、慣れると気にならなくなる方がほとんどです。
外出時には「携帯用酸素ボンベ」または「液体酸素システム」を使います。処方された流量と外出時間に合わせて機器業者が適切なものを提案してくれます。どちらの機器も、退院前に担当医と機器業者が使い方を説明してくれます。
保険適用と費用の目安
在宅酸素療法は医師の処方により健康保険が適用されます。機器のレンタル料の目安は月額で、1割負担の方は約7,700円、2割負担の方は約15,400円、3割負担の方は約23,000円程度です。別途、機器の稼働にかかる電気代が月1,500〜3,000円程度増加します。(出典:厚生労働省 在宅酸素療法診療報酬関連情報)
また、COPDなど特定の疾患は「難病医療費助成制度」や「障害者総合支援法」の対象になる場合があり、さらに負担が軽減されることがあります。費用について不安がある場合は、退院支援担当の医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
自宅に帰る前に準備しておくこと
退院前の準備が、在宅生活の安心感を大きく左右します。「誰に連絡すればよいか」を明確にしておくだけで、緊急時の慌てが格段に減ります。
医療機関・機器業者との連絡先を整理する
退院前に必ず整理しておきたい連絡先は以下の4つです。
①主治医・病院の退院支援担当者、②在宅酸素機器業者の緊急連絡先(24時間対応)、③かかりつけ薬局、④訪問診療医・訪問看護ステーション。
特に機器業者は24時間365日の緊急ダイヤルを持っているケースが多く、機器トラブル時の第一連絡先になります。連絡先を一枚の紙にまとめて、冷蔵庫や電話の近くに貼っておくと便利です。
すえひろ訪問看護ステーションでは、可能な限り退院前カンファレンスに参加し、ご自宅の状況をあらかじめ把握した上で初回訪問に臨んでいます。「退院後すぐに来てほしい」というご要望にも対応できますので、まずはご相談ください。
自宅環境の整備ポイント
酸素濃縮器を設置する際は、コンセントの近くに置き、機器の通気口を塞がないよう周囲に余裕を持たせてください。最も大切なのは火気厳禁です。ガスコンロ・タバコ・ライター・マッチなど、火を使うものや火花が出るものは、機器の周囲2m以内には置かないでください。(出典:厚生労働省 在宅酸素療法における火気の取扱いについて)
ご家族全員が「在宅酸素を使っている」という認識を共有することも大切です。来客や宅配業者が喫煙者である場合への対応も、事前に話し合っておきましょう。
チューブの取り回しと転倒リスク
酸素濃縮器から延長チューブをつなぐことで、自宅内を自由に移動できます。しかし床を這うチューブは、つまずきの原因になります。チューブをテープで壁に沿わせる、市販のコード固定クリップを使うといった工夫でリスクを減らせます。
「どこに機械を置けばいいかわからない」という段階からご相談ください。訪問看護師が初回訪問時に自宅内のリスクを確認し、具体的な改善提案を行います。
日常生活の中での注意点(入浴・外出・食事)
HOTを使いながらも、入浴・外出・食事は工夫次第で続けられます。「できないこと」より「こうすれば続けられる」という視点で考えていきましょう。
入浴・シャワー時の対応
HOT使用中でも、主治医の許可があれば入浴できます。ただし、湯船に長くつかると体力の消耗と蒸気による息苦しさが増すことがあります。シャワーを短時間で済ませる方が安全なケースも多くあります。
入浴中も酸素吸入が必要な方の場合は、機器の防水性を考慮する必要があるため、担当医や機器業者、訪問看護師に事前に相談してください。「一人での入浴が心配」という場合は、訪問介護や訪問看護による入浴介助も選択肢になります。
外出時の酸素ボンベ管理
外出の際は携帯用ボンベを使います。ボンベの残量と外出予定時間を計算し、余裕を持った量を確保してください。処方された流量によって使用可能時間が変わります。機器業者が流量別の使用時間表を提供してくれますので、参考にしてください。
遠出や旅行を希望する場合は、目的地近くの機器業者に事前連絡が必要なことがあります。航空機を利用する場合は、JAL・ANA共に搭乗14日以内に作成された医師の診断書と機器の仕様証明書の提出が必要です。(出典:ANA・JAL各公式サイト)
「外出が難しいのでは」と思われがちですが、準備次第でかなりの行動が可能です。旅行や外出の計画も、訪問看護師やケアマネジャーと一緒に立てていきましょう。

食事と栄養の工夫
呼吸器疾患の方は食事中に疲れやすく、一度にたくさん食べると横隔膜(おうかくまく)が圧迫されて息苦しくなることがあります。「少量を頻回(ひんかい)に食べる」スタイルが基本です。食事は体力をつけるためにとても重要で、低栄養になると呼吸筋の力も落ちてしまいます。
炭酸飲料は消化中にガスが発生しやすく、腹部膨満から呼吸困難につながることがあります。食事の内容や量について不安がある場合は、訪問看護師や管理栄養士にご相談ください。
こんな時は要注意:緊急時のサインと対応
在宅酸素療法では、日頃から「いつもと違う」変化に気づくことが大切です。以下のサインが現れたときは、迷わずに連絡してください。
すぐに連絡すべき症状
以下の症状が現れた場合は、速やかに訪問看護師・かかりつけ医・機器業者へ連絡し、状況によっては救急(119番)を呼んでください。
- SpO2(血中酸素濃度)の値が88%を下回っている、または主治医から指示された目標値を大きく下回っている
- 唇や指先が紫色(チアノーゼ)になっている
- 意識が朦朧としている、または呼びかけに反応が鈍い
- 安静にしていても胸痛や動悸が続く
- 急に息苦しさが増し、楽な姿勢が取れない
SpO2の目標値は主治医が個別に指示します。パルスオキシメーター(指先に挟む測定器)を日常的に使い、普段の値を把握しておくことが早期発見につながります。普段の値から3〜4%低下した場合もかかりつけ医への連絡の目安になります。(出典:日本呼吸器学会 Q&Aパルスオキシメータハンドブック)
看護師
機器トラブル時の対応
電源が入らない、警告音が鳴り続ける、チューブが外れたなどのトラブルが起きたときは、慌てず機器業者の24時間緊急ダイヤルに連絡してください。多くの業者が夜間・休日でも対応しています。
停電時には、予備の携帯用ボンベを使用します。台風や大雪など停電が予想される場合は、事前に機器業者に連絡して予備ボンベを多めに確保してください。電力会社(東京電力など)への「医療機器使用者登録」を行うと、計画停電や復旧情報を優先的に受け取れる場合があります。詳細は機器業者または各電力会社にご確認ください。
火気との関係を正しく知る
酸素は燃焼を助ける性質(支燃性)があります。高濃度酸素の環境では、通常よりも火が燃え広がりやすくなります。以下の点を日常的に守ってください。
- 喫煙は絶対に禁止(本人だけでなく、同室の方も)。在宅酸素使用中の火災の約4割がタバコによるものです
- 機器の周囲2m以内にはガスコンロ・ストーブ・線香・ロウソクなどの火気を置かない
- できればガスコンロをIHヒーターへ切り替えることを検討する
- ヘアドライヤー・電気毛布など、熱を発するものの近くでの使用にも注意する
(出典:厚生労働省 在宅酸素療法における火気の取扱いについて)
「タバコがなかなか止められない」という相談も、遠慮なくしていただいて構いません。禁煙サポートの方法を一緒に考えます。
訪問看護師はHOT管理をどうサポートするか
訪問看護師は、医師と利用者様・ご家族をつなぐ存在です。HOTの管理は「機器業者に任せておけばよい」ではなく、日常の健康観察と生活支援が一体となって初めて安全な在宅生活が実現します。
導入初期の同行・指導
退院直後は不安が最も高まる時期です。すえひろ訪問看護ステーションでは、HOT導入初期に看護師がご自宅に伺い、機器の操作確認・自宅環境のリスク評価・緊急時の手順確認を一緒に行います。
「機器の使い方はなんとなくわかったけど、本当にこれでいいのか自信がない」というご家族の声をよく聞きます。「退院したら終わり」ではなく、在宅生活が始まってからが本番です。最初の1〜2週間は特にこまめに連絡を取り合いながら、不安を一つひとつ解消していきます。
定期訪問で行うケアの内容
定期訪問では、SpO2・呼吸数・呼吸音の観察、体重・浮腫(むくみ)のチェック、処方された酸素流量が現状に合っているかの確認を行います。薬の飲み忘れや副作用のモニタリング、排痰(はいたん)ケア(痰が出しやすい体位や呼吸法の指導)も担います。
変化に気づいた場合は主治医にすぐ報告し、必要に応じて往診や入院の手配をコーディネートします。医師・薬剤師・ケアマネジャー・機器業者との情報共有も訪問看護師の重要な役割です。
ご家族の不安に寄り添う
利用者様だけでなく、ご家族の精神的なサポートも大切な仕事だと考えています。「夜中に機械が止まったらどうしよう」「自分が外出している間に何かあったら」という不安は当然のことです。
制度上難しいと思われることでも、まずはご相談ください。「こんなことを聞いてもいいのかな」と遠慮する必要はありません。ご家族が安心して過ごせることが、利用者様の安定した在宅生活につながります。専門職として責任を持って、誠実に向き合わせていただきます。
まとめ
在宅酸素療法は、慣れるまでは不安なことも多いですが、適切な準備とサポートがあれば自宅での生活を安全に続けられます。退院前の環境整備、日常生活の工夫、緊急時の対応手順——これらを一つひとつ確認しながら進めていきましょう。
すえひろ訪問看護ステーションは、HOT導入初期から継続的に皆様の在宅生活を支えます。「機械のことが怖い」「何かあったときにどうすればよいかわからない」という最初の一歩の不安から、一緒に考えさせてください。「こんなこと相談してもいいのかな」と思われる小さな疑問も、どうぞ遠慮なくお声がけください。
【お問い合わせ先】
すえひろ訪問看護ステーション(本店)
〒120-0015 東京都足立区足立4-25-13-102
TEL: 03-5888-6375 受付: 8:30〜17:30(土日祝日も対応)
24時間365日 緊急対応あり
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足立西すえひろ訪問看護ステーション(2号店)
〒123-0841 東京都足立区西新井2-9-19
TEL: 03-5856-9666
よくある質問
Q. 在宅酸素を使っていても喫煙できますか?
A. 在宅酸素療法中の喫煙は絶対に禁止されています。高濃度の酸素環境では火が引火しやすく、大変危険です。同居するご家族・来客者の喫煙も、機器の使用中は同室では行わないようにしてください。禁煙が難しい場合は、主治医や訪問看護師に相談してください。禁煙サポートの方法を一緒に考えます。
Q. 停電になったとき、酸素濃縮器が止まってしまいます。どうすればよいですか?
A. 停電時は予備の携帯用酸素ボンベを使用します。台風や大雪など停電が予想される場合は、事前に機器業者へ連絡し、予備ボンベを多めに確保してください。また、自治体の「在宅医療機器使用者」として登録しておくと、災害時に優先的な支援が受けられることがあります。お住まいの市区町村の担当窓口にお問い合わせください。
Q. 在宅酸素を使いながら旅行に行けますか?
A. 準備次第で旅行も可能です。旅行先での機器手配(機器業者への事前連絡)、行先の医療機関の確認が必要です。航空機を利用する場合は、JAL・ANAともに搭乗14日以内に作成された医師の診断書と機器の仕様証明書が必要です。事前に航空会社の公式サイトで最新情報をご確認ください。訪問看護師やケアマネジャーと一緒に計画を立てましょう。(出典:ANA・JAL各公式サイト)
Q. HOTの機器が正常に動いているか、家族はどうやって確認すればよいですか?
A. パルスオキシメーター(指先に挟む測定器)でSpO2(血中酸素濃度)を測ることが基本的な確認方法です。目標値は主治医が個別に指示します。加えて、機器の流量計の数値と、チューブに折れや外れがないかを毎日確認する習慣をつけてください。
Q. 訪問看護は何回来てもらえますか?費用はどのくらいかかりますか?
A. 訪問看護の頻度は病状・保険の種類によって異なります。医療保険の場合は原則週3回まで(特定疾患は毎日可)、介護保険の場合はケアプランによって決まります。費用は保険の種類と自己負担割合によって変わりますので、まずはすえひろ訪問看護ステーションにご相談ください。

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