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脳卒中で退院した親の転倒予防|訪問看護でできること

脳卒中後に在宅復帰した方の転倒リスクは、病院環境と比べて格段に高まります。令和4年国民生活基礎調査(厚生労働省、2023年公表)では、高齢者が要介護状態になった原因の**13.0%**が「骨折・転倒」であり、これは認知症(23.6%)、脳血管疾患(19.0%)に次ぐ3位です。「転んだらどうしよう」という不安を抱えるご家族に向けて、訪問看護師が実際に行う転倒予防の取り組みを具体的にご説明します。


脳卒中後に転倒が増える理由と在宅特有のリスク

脳卒中後の転倒リスクは、病院とは異なる複数の要因が重なって高まります。在宅では監視の目が減り、慣れ親しんだはずの自宅環境が新たな危険の場所になることがあります。

後遺症が引き起こす身体・認知の変化

脳卒中(脳梗塞・脳出血)の後遺症として最も多いのが、片麻痺(かたまひ)と呼ばれる体の片側の運動障害です。麻痺側の足に力が入りにくいため、歩行時のバランスが崩れやすくなります。

また、右大脳半球が損傷した方の約4割に、半側空間無視(はんそくくうかんむし)が合併するとされています(日本神経心理学会)。半側空間無視とは、視力に問題がないにもかかわらず、脳の障害により片側の空間を認識しにくくなる症状です。段差に気づかずつまずいたり、壁や家具にぶつかったりするリスクが高まります。

さらに、降圧薬や睡眠薬などの服薬によるめまい・ふらつきが転倒の引き金になることも少なくありません。

退院直後の自宅環境が生む「落とし穴」

かがわ総合リハビリテーション病院の報告(高橋伸也ら、2015〜2017年データ)によると、脳卒中患者の入院中の転倒インシデントがあった方の35.7%が自宅退院後にも転倒を経験しているとされています。病院のバリアフリー環境とは違い、自宅にはじゅうたんの端、コードの這いまわり、暗い廊下、段差のある玄関など、転倒リスクが潜む場所がいたるところにあります。

特に注意が必要なのが夜間のトイレです。睡眠中から急に立ち上がる動作は、脳卒中後の方に多い起立性低血圧(立ちくらみ)を招きやすく、転倒事故が起こりやすいタイミングです。

圖解 | 百寝闘倒リスクマップ 腗卓倒後に注意すべき自宅内の転倒リスクが高い場所
リスク&#39640(要备侠)
リスク中(要注意)
リスク低(比較Ḅ安全)
玄関 信口的 愷下 浴室 浴水・湯水リスク トイレ 夜間の空立ちリスク リビング・ダイニング 比較的安全な空間 寓室 起き上がりのリスク ダイニング・キッチン コード・マットに注意 高リスク 高リスク 高リスク 中リスク 中リスク 夜間トイレの動線 段&#24î;を注意 コード・斜き物 イメージ&#22259
高リスク 玄関(入り口)
上がりフレームの段&#24î;でつまずいやすい 黊係が手から妯れるリスク 外出後の疐れではけつまずき
高リスク 浴室(バスルーム)
浴水で漏れた庵がスリップの原因 浴洈出入り時の段&#24î;で転倒 浴洈内での空立ち上がりでらつき
高リスク トイレ(特に夜間)
睡眼中から空立ち予立性低血的リスク 暗い愷下での連空立ち境坚圳り バリアフリーでないボタン抜き転倒
中リスク 愷下・寓室
コード・値柌が転倒のつまずきに じ⼵うたんの端が転倒のあるなはしに 寓室からトイレまでの夜間動線で転倒
その他の主なリスク: トイレ・浴室への空立ち倉きのあるすべての局所が転倒リスクになります。また、ごく一般的なリビング・ダイニングでも、じ⼵うたんの端、値柌のコード、破れたパーツなどが転倒のあるはしになります。防壇薩や盽眼薪などの服薩によるめまい・ふらつきも、転倒のきっかけになることがあります。

訪問看護師がアセスメントする「転倒リスクのチェックポイント」

訪問看護師は、初回訪問時から転倒リスクを多角的に評価します。身体機能だけでなく、生活環境・服薬・認知機能・ご家族の状況も含めた包括的なアセスメントが、在宅での事故防止につながります。

身体機能・認知機能のチェック

以下の項目が、訪問看護師が実際に観察・確認するポイントです。

身体機能面

  • 立ち上がりと座る動作の安定性(ベッド・椅子・トイレ)
  • 歩行のふらつき・歩幅・歩行補助具の使い方
  • 麻痺側の筋力と感覚障害の程度
  • Timed Up and Go テスト(椅子から立ち上がり3m先を歩いて戻る時間)13.5秒以上は転倒リスクが高いとされています(Shumway-Cook らのカットオフ値)

認知・知覚機能面

  • 半側空間無視の有無(食事のトレーを左側に置いて気づくか、など)
  • 判断力・注意力の低下(危険を認識できているか)
  • 夜間の混乱(せん妄)の有無

服薬・日常動作のチェック

服薬している薬の種類も必ず確認します。睡眠薬・抗不安薬・降圧薬・利尿剤などはふらつきの原因になりやすく、特に服薬後の動作には注意が必要です。

また、日常生活の中で転倒リスクが高まるタイミング(トイレ・入浴・着替えなど)を一つひとつ確認し、具体的な対策を一緒に考えていきます。

以下のチェックリストで、ご家族も日々の観察に活用してみてください。

  • 夜間、トイレに一人で行こうとすることがある
  • 歩くとき足が床をすりながら歩く(すり足歩行)
  • 立ち上がる際にふらついたり時間がかかる
  • 靴やスリッパのかかとを踏んで歩いている
  • 廊下・居間にコードや雑誌が散乱している
  • 夜間の照明が暗い
  • 浴槽またぎが不安定に見える
脳卒中退院後の在宅転倒リスク確認チェックリスト
訪問看護師による転倒リスクアセスメント 脳卒中退院後の在宅転倒リスク確認チェックリスト 夜間トイレ・歩行・環境整備など、日常生活の場面ごとのリスクを家族が観察・評価するための一覧です。
リスクレベル
要注意(高リスク) 注意(中リスク)
No. チェック項目 リスクレベル 確認(○)
1 夜間、トイレに一人で行こうとすることがある 要注意
2 歩くとき足が床をすりながら歩く(すり足歩行) 要注意
3 立ち上がる際にふらついたり、時間がかかる 要注意
4 靴やスリッパのかかとを踏んで歩いている 注意
5 廊下・居間にコードや雑誌が散乱している 注意
6 夜間の照明が暗い 注意
7 浴槽またぎが不安定に見える 要注意
要注意項目(高リスク):4項目
注意項目(中リスク):3項目

TUGテスト(Timed Up and Go)について:椅子から立ち上がり3m先を歩いて戻る時間が13.5秒以上の場合、転倒リスクが高いとされています(Shumway-Cook ら、2000年)。

このチェックリストはご家族による日常観察を目的としたものです。複数の項目が当てはまる場合は、担当の訪問看護師または主治医にご相談ください。

環境整備・福祉用具活用で変わること

転倒予防において、住環境の整備は非常に効果的な対策です。地域在住高齢者を対象とした転倒予防介入のシステマティックレビュー(健康長寿ネット掲載、転倒率比0.81と報告)では、家屋調査と住環境修正が転倒率を約19%低減させる可能性が示されています。

まず取り組める住環境の整備

「良い高さに物を置き、居間の整理、じゅうたんの固定、段差と床をしっかりと区別して、暗い場所には間接照明を設置する」という視点が、転倒予防の基本です。

具体的には次のような工夫が有効です。

  • 段差の解消・表示: 玄関・トイレ・浴室の段差にはスロープや滑り止めシートを設置。段差がある場合は色テープで視覚的に目立たせる
  • 夜間照明の確保: 就寝後のトイレ動線には常夜灯や人感センサーライトを設置する
  • 動線の整理: コード・じゅうたんのめくれ・散乱物を片付け、移動ルートを安全に保つ
  • 滑りにくい靴の選択: 介護靴(リハビリシューズ)は、かかとがあり足の甲をしっかり固定できるため歩行時の安定性が向上します

介護保険で活用できる福祉用具

要介護認定を受けている方は、介護保険を活用して福祉用具のレンタル・購入ができます。主な対象品目は以下の通りです。

レンタル(月額負担)

  • 手すり(工事不要タイプ含む)
  • 歩行器・歩行補助杖
  • 電動ベッド(介護用)

購入補助(特定福祉用具)

  • 入浴用品(浴槽内いす・すべり止めマット)
  • 簡易便器

自宅改修が必要な場合は、介護保険の住宅改修給付(工事費用の上限20万円) も利用できます。手すりの取り付けや段差解消が対象となります。実際の給付額は自己負担割合(1〜3割)を差し引いた金額となります(1割負担の方の場合、最大18万円が支給されます)。担当のケアマネジャーにご相談ください。

介護保険で活用できる福祉用具・住宅改修 一覧 要介護認定を受けた方が利用できる制度(自己負担1〜3割)
福祉用具レンタル 要介護認定があれば原則利用可
月額レンタル
手すり 工事不要タイプも対象
スロープ 段差解消用(固定型) 購入も選択可
歩行器 固定式・交互式(歩行車を除く) 購入も選択可
歩行補助杖 多点杖・ロフストランド等 購入も選択可
介護用ベッド 要介護2以上が原則対象
車いす・付属品 要介護2以上が原則対象
床ずれ防止用具・移動用リフト など
自己負担の目安 月額レンタル料の1〜3割を毎月負担
特定福祉用具購入 衛生上レンタルになじまない品目
購入費補助
浴槽内いす 入浴時の立ち座り補助
すべり止めマット(浴室用) 浴室・浴槽内の転倒防止
浴槽用手すり・入浴補助用具 浴槽への出入りを補助
腰掛便座(簡易便器) ポータブルトイレ・洋式化補助
シャワーチェア・入浴用介助ベルト など
年間上限・自己負担 年間10万円まで/購入費の1〜3割を負担
住宅改修給付 事前にケアマネジャーを通じた申請が必要
工事費補助
手すりの取り付け 廊下・玄関・浴室・トイレ等
段差の解消 スロープ設置・敷居の平滑化
床材・通路の変更 滑り防止・移動しやすい素材へ
扉の取り替え 引き戸・折り戸への変更
洋式便器への交換 など
工事費上限・支給例(1割負担の場合) 工事費上限20万円 ► 最大18万円支給・自己負担2万円
※2割負担:最大16万円支給、3割負担:最大14万円支給
選択制(2024年4月〜):固定用スロープ・歩行器・単点杖・多点杖は、レンタルか購入かを選べるようになりました。
住宅改修給付は原則1人1回(20万円まで)。要介護度が3段階上昇した場合や転居した場合は再度利用可能です。
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どの制度を利用するか迷ったときは、担当のケアマネジャーにご相談ください。身体状況や住環境に合った福祉用具の選定・申請手続きをサポートしてもらえます。

リハビリ職との連携はどう動く?

転倒予防において、訪問看護師単独では限界があります。理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)などのリハビリ専門職と連携することで、より効果的な支援が実現します。

理学療法士・作業療法士との役割分担

理学療法士(PT)は、主に歩行・バランス・移動動作の改善を担当します。在宅での生活動線に合わせた個別のリハビリプログラムを作成し、筋力強化やバランス訓練を継続的に行います。

作業療法士(OT)は、トイレ・入浴・更衣などの日常生活動作(ADL)の改善や、自助具・福祉用具の選定・使い方の指導を行います。片麻痺や半側空間無視がある方への生活環境の工夫も専門領域です。

訪問看護師は、訪問のたびに歩行状態や体調を観察し、変化を関係職種と共有する「情報の橋渡し役」として機能します。

サービス担当者会議での情報共有

多職種連携の中心となるのが、ケアマネジャーが主催するサービス担当者会議です。訪問看護師、理学療法士、ヘルパー、主治医などが一堂に集まり、転倒リスクへの対策方針を共有します。

「夜間トイレ時のリスクが高い」「特定の動作でふらつきが見られる」など、訪問看護師から具体的な情報を提供することで、多職種が統一した方針でケアに臨むことができます。

在宅転倒予防における多職種連携の全体像
訪問看護師 情報の橋渡し役 主治医 医療判断・処方指示 理学療法士(PT) 歩行・バランス訓練 作業療法士(OT) ADL改善・福祉用具 ケアマネジャー 担当者会議主催・調整 ヘルパー 日常生活援助・見守り ご家族 日常観察・介護協力 ▲ 医療 ▲ リハビリ ▲ ケア調整 ▲ 生活支援 ▲ 家族
訪問看護師(中心) 訪問看護師との連携 他職種間の連携

すえひろがご自宅を訪問したときに行うこと

すえひろ訪問看護ステーションでは、「利用者様が本当に望まれている生活は何か」を常に考えながら、転倒予防に取り組んでいます。制度上の枠にとらわれず、「どうすればこの方が安心して暮らせるか」を一緒に考えることが私たちの姿勢です。

初回訪問で行うこと

初回訪問では、まずご自宅全体を看護師の目で丁寧に確認します。動線・照明・床の状況・トイレや浴室の安全性など、転倒が起こりやすい場所を一つひとつチェックします。

同時に、利用者様の身体状況と服薬内容を確認し、転倒リスクの高い動作を把握します。ご家族への聞き取りも重要で、「夜中に一人でトイレに起きようとする」「杖を使いたがらない」といった普段の様子から、潜在的なリスクを見極めていきます。

継続訪問での見守りと変化への対応

定期訪問のたびに、歩行状態・バランス・体調・服薬状況を観察します。「先週より足の動きが重くなった」「血圧が下がり気味でふらつきが出ている」といった変化を早期に発見し、主治医への報告や多職種への情報共有につなげます。

また、季節の変化(冬場のトイレ時の寒暖差による血圧変動など)や生活の変化に応じて、対策を柔軟に見直していきます。

80代の利用者様で、退院後に「夜中のトイレが一番怖い」とお話しされていたケースでは、ご本人・ご家族・担当ケアマネジャーと話し合い、ポータブルトイレの設置と夜間照明の整備、さらにリハビリ職による歩行訓練を組み合わせた計画を立てました。数週間後には「夜中も安心して眠れるようになった」とお声をいただいています。

「こんなことを相談してもよいのかな」と思われることでも、どうぞ遠慮なくご連絡ください。専門職としての責任と誇りを持って、誠実に向き合わせていただきます。

まとめ

脳卒中後の在宅復帰における転倒予防は、「転ばないようにする環境整備」と「身体機能を維持・改善するリハビリ」の両輪で取り組むことが大切です。訪問看護師は、利用者様の自宅に実際に足を運ぶからこそ、見えてくるリスクや生活の実態があります。医療・介護の多職種と連携しながら、一人ひとりの状況に合った支援を提供します。

「転倒が怖い」という不安を抱えたまま、ご家族だけで対処しようとしなくて大丈夫です。訪問看護師が定期的に関わることで、変化に早めに気づき、リスクを最小限に抑えることができます。

まずは主治医またはケアマネジャーにご相談いただくか、当ステーションまで直接お問い合わせください。

【お問い合わせ先】 すえひろ訪問看護ステーション 〒120-0015 東京都足立区足立4-25-13-102 受付時間:平日 9:00〜17:00


よくある質問

Q. 脳卒中後に転倒しやすくなるのはなぜですか?

A. 脳卒中の後遺症として片麻痺・感覚障害・半側空間無視・注意障害などが残ることがあり、これらがバランスや歩行の安定性を低下させます。また、退院後は病院のバリアフリー環境から自宅の生活環境に戻るため、段差・コード・暗い廊下などに対応しきれず転倒リスクが高まります。

Q. 訪問看護師は転倒予防のために何をしてくれますか?

A. 訪問看護師は、自宅を実際に訪問して生活環境・歩行状態・服薬内容・認知機能などを多角的に評価します。危険箇所の改善提案、福祉用具の選定支援、ご家族への介護指導、理学療法士などのリハビリ職との連携調整を行い、転倒リスクを下げるための総合的なサポートをします。

Q. 介護保険を使って手すりをつけることはできますか?

A. 要介護認定を受けている方は、介護保険の住宅改修給付(工事費用の上限20万円)を利用して手すりの取り付けや段差解消工事ができます。また、工事不要のレンタル手すりも介護保険でご利用いただけます。ケアマネジャーにご相談ください。

Q. 夜中のトイレ時の転倒を防ぐには何が有効ですか?

A. 動線に常夜灯や人感センサーライトを設置すること、ポータブルトイレをベッド脇に配置すること、そして起き上がる際にすぐに立たず少し座って体を慣らしてから立つ「起立性低血圧の予防動作」を習慣化することが有効です。訪問看護師が具体的な方法をご本人・ご家族と一緒に確認します。

Q. 転倒してしまった場合、どう対応すればよいですか?

A. まずご本人を安心させ、頭・腰・骨盤などを打っていないか確認します。痛みが強い・動けない・意識がおかしい場合はすぐに救急へ連絡してください。外見上の問題がなくても、転倒後は骨折している可能性があるため、主治医や訪問看護師に必ず報告することが大切です。転倒後の恐怖心が活動量低下につながるケースが多いため、早めに専門職に相談することをお勧めします。


参考資料・相談窓口

統計・ガイドライン

  • 令和4年国民生活基礎調査(厚生労働省、2023年公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
  • 高齢者の転倒予防(健康長寿ネット・公益財団法人長寿科学振興財団) https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreisha-undoki-kenko/tento-kossetsuyobo-torikumi.html
  • 介護保険における住宅改修(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/toukatsu/suishin/dl/07.pdf
  • かがわ総合リハビリテーション病院 回復期病棟アウトカムプロジェクト報告(高橋伸也ら) https://kagawa-reha.net/wp-content/uploads/2023/05/v506tk.pdf

相談窓口

  • 地域包括支援センター(厚生労働省)
  • 公益社団法人 日本理学療法士協会

本記事の内容は公開時点の情報に基づいています。制度・数値は改定される場合があります。最新情報は各省庁・機関の公式サイトをご確認ください。

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